ウルフさんの『逆境を成功に変える鉄板法則』

8.明後日の自分に胸をはる

「よし、それじゃぁ、もう一度現状を確認しようぜ」
ウルフさんたちは、丸いテーブルを囲みながらハーブティーを飲み、話し始めました。

「コウちゃんの一番の理想の形は、『きれいな川に戻して、そこに住むこと』だよな。
ちなみに、もへこが今、一番理想としている状態ってなんだ?」

「私は、自分のお店が、新規顧客の獲得をしなくても、リピーターでいっぱいになることです」

「そうか。その二つは、『なんで自分はこんな状態にいるんだろう・・・』って思っている時にはみえない景色だったよな。
自分が『泥沼』の中にいるとき、つまりコウちゃんの場合は文字通りだが、もへこの場合は経営がドンドン悪化しちまって借金がかさんでいった時には、それはみえねぇんだ。
見えたとしても、『依存』とか『逃げ道』とか『恐れや不安』っていう汚れがなかなか拭えねぇから、結局泥沼の考えしか浮かばねぇ。
逆境は、精神まで逆境にいちまったら、チャンスに変えれねぇんだよ」

「現状に、気持ちが負けちゃうんですね・・・」
コウちゃんがカモミールティーをすすりながら言いました。

「あぁ、どれだけ『このままではいけない』って頭でわかっていても、そこに浸かっているうちは行動に移せねぇ」
「それが、ちょっと前までのわたしやコウちゃんの状態だったんですね」

「そうだな。そしてその状態を、人がどうこうしてくれるっていうことは、絶対にねぇ。
自分で気付いて、自分で一歩目を踏み出さなきゃ、ずぅっとそのままだ」

「でも、ウルフさんやもへこちゃんがいてくれなかったら、ボクは出られませんでした」

「俺は手を貸したわけじゃねぇよ。 ある『キーワード』をコウちゃんに与えただけだ。
それは、『自分にとって、一番いい状態』だ」

「ウルフさんがボクに川岸で言っていたことですね・・・」

「他の言い方をするとよ、『もしも、何をやっても成功するとしたら、どうするか』っていうことだ。

どんな奴でも、泥沼にはまると可能性を閉ざして自分の息を殺しちまう。それは仕方ねぇことだ。プレッシャーや現状に押しつぶされちまってるんだから、それでも笑って歩けって言うのは無理だ。
それは、泥沼に頭まで浸かりながら『呼吸をしろ』って言うようなもんでよぉ、拷問みてぇなもんだぜ」

でも、『酸素ボンベ』がありゃ、呼吸できるだろ? その『酸素ボンベ』の代わりが、『もしも』っていう仮説なんだ。どうしようもねぇ現状から、抜け出せる唯一の突破口は、『理想』や『幻想』や『夢』だ。
だから、苦しい時はそういう『もしも』で自分の気持ちをつなぎながら、次へ進んでいくしかねぇ」
「た・・・確かにボクは、ウルフさんが『そこから出ろ』とか『現状から逃げるな』とかではなく、『自分にとって一番いい状態』を想像するチャンスをくれたから、泥沼から抜け出せるきっかけになりました」

「そうだよな。まずは、その状態から抜けることだ。
悲観的にも楽観的にもなる必要はねぇ。心はそんなに簡単じゃねぇもんな。
でも、『客観的』には、キーワードを使えばなれるんだ」

「それが・・・コウちゃんに言った『一番いい状態』っていう奴なんですね・・」

「あぁ、ほれ、忘れねぇウチに書いておきな。 何が自分にとって一番言い状態なのか。
もしも全てがうまくいって、絶対に失敗をしないなら、自分は”コレをする!!”ってよ。

 

それが、オメェの一番の望みのはずだ。 それに対して行動できねぇのは、現状が泥沼だからだ。
『もしも失敗したらどうしようか・・』とか『もしも笑われたらどうしようか・・』とか、
『もしも余計に泥沼にはまったらどうしようか・・・』とかよ」

「そうか・・・わたしもコウちゃんも、そうやって考えているうちに・・・」
「ボクは、危うく泥沼のままで死ぬところだったんですね・・・」

「いいか。 進まない理由なんてねぇんだ!
理想の自分がわかったのなら、それが全てだ。 もう一度いうぜ、それが全てなんだ!

他の例えをするとよ、恋人と喧嘩をしちまって、気まずくなっちまったとするよな。
でも自分にとって、ちゃんと謝って仲直りをすることが理想の状態だっていうことがわかってる。
それがわかってるのに行動をしねぇとどうなる?」

「余計に関係がこじれちゃいますよね・・・」
「もしかしたら、そのまま別れちゃうかもしれませんね・・・」

「そうだろ? 全部一緒じゃねぇか。 もへこの経営も、コウちゃんの泥沼も、恋愛の喧嘩もよ。
本当は答えなんてわかってるんだ。 でも、『そこにいるから動けねぇ』んだよな。

だから、こうやって聞いてみて、書き出してみて、自分を客観的に見るんだ。
『もしも全てがうまくいったら、何をする?』ってよ」

「でも・・ウルフさん、ボクはあえて言わせてもらいます・・・。
現実って、厳しいんですよ・・? もっともっと困難で、もっともっと辛くって、怖くって・・・」

「あぁ・・・わかってるよ。 きっと、オメェらよりもわかってるさ。俺だって、泥沼で地獄を見てるからよ・・。
ずぅっと、泥沼から出られなくて、殺したいほど憎んだりしたけれど、出てきたんだぜ?」
もへこたちには、ウルフさんの言っていることがわかりませんでした。
でもなんだか、それ以上聞くことはできませんでした。

「確かに、現実は厳しいよ。 思うようにいかねぇことなんて、毎日あるしよ。
でも、そこから逃げててどうする?
今日と同じことをして、明日未来が変わるか? 10年後に理想の自分になってるか?

オメェらは、『ショーシャンクの空に』っていう映画みたことあるか?
無実の罪で投獄された銀行員の刑務所暮らしの話だ。

どんな辛いことがあっても希望を捨てず、理想の状態を見つめつづけ、最終的には開放される話だ。

その銀行員が途中で諦めてたらどうなる?
腐った刑務所暮らしに絶望していたらどうなる?
『明日にはスーパーマンが現われて、僕の無実を証明してくれる』って思ってたらどうなる?

スーパーマンになれっていってるんじゃねぇ。現実は厳しい。明日すぐに未来がばら色になったりしねぇ。
でも、『明後日の自分が胸を晴れるように生きていこうぜ』って言ってるんだ!」

「今すぐでもなく・・・明日でもなく・・」
「明後日の自分に、胸を張る・・・」

「あぁ、明日すぐ笑えなんてことは言えねぇ。それは現実的じゃねぇかもしれねぇ。
明日急に世界が変わることなんてねぇしよ。

でも明後日なら、明日準備ができるじゃねぇか。今日、計画を立てられるじゃねぇか!」

「まずは、1歩動く為に、自分の心をどういうところに持っていくかっていうことですね・・」
「ボク、やれる気がします・・・変えられる気がします!」
「よし、変えていこうぜ! 汚れた川や、抜け出せない経営をよ!」