(なんでこいつらは、ボクのことをそっとしておいてくれないんだろう・・・)
コウちゃんは思いました。
「いいからほっといてくれよ! ボクはボクのやりかたでこの川を守っていくんだ!」
「おめぇ、『この川を守る』って、どうやって守るつもりだ?」
「いま、こうして守っているだろう!? これはボクの意思表示だ!」
「おめぇがやりたいことって、泥んこ遊びか?」
「な・・・・なにをぉ!!!?」
コウちゃんは激怒しました。
「う・・ウルフさん、ちょっとひどいですよ。コウちゃん、あんなに頑張ってるのに・・」
「そうか? あいつが何を頑張ってるって言うんだよ。
頑張って現状にしがみついているだけじゃねぇか。そっからどうやって川を守るんだ?
コウちゃんが本当にやりたいことって、『川を守る』ことだろ?
それに対して、あいつは一歩も動いてねぇじゃねぇか。耐えてる暇があったらごみを拾えよな」
「ウルフさん・・・ひどいです。 ウルフさんには、コウちゃんの気持ちがわからないんですよ!」
もへこは、いつのまにかコウちゃんの気持ちにすっかり寄り添ってしまっていました。
「・・・・そうかもな。でも、ちょっとはわかるつもりだぜ?
俺も昔、現状が苦しくて苦しくてどうしようもねぇ時があったんだ・・もへこやコウちゃんみてぇによ」
いつもよりも寒い冬だった。食べるものがなくて、貯蓄もまったくなくってよぉ、ある日、腹が減って腹が減って、古い屋敷に忍び込んだことがあるんだ。なにか食い物を盗もうと思ってよ・・・。
ところが、そこに居るタヌキのじいちゃんに見つかっちまって、妙な説教を聞く羽目になった。
俺はそんとき、3万円しかもっていなくってよ。その現状にしがみついていた。
その3万円で何とかその場をしのぐことが全てだったんだ。
そんな俺に、タヌキのじいちゃんはこう言った。
『今をどう乗り切るかだけをみているから、乗り切れない』ってよ・・・。
そして、『現状から脱出して、成功を収める法則』を教えてくれたんだ。
まぁ、もっとも俺は一時はそれで成功したが、また懲りずにもう一回地獄を見ちまったけれどよ・・・」
「・・そうだったんですか・・」
「だからこそ、あいつにも抜け出してほしいな・・・。
抜け出さなきゃいけねぇことは、あいつが一番わかっているはずだしよ」
「ウルフさん・・・、私もコウちゃんの気持ち、わかるんです。
私、お店を軌道に乗せようと思って、色んなことをしました。
実は、チラシを配ったり、ホームページを作ったりもしたんです・・・。
でも、全然効果がなくって、最終的には隠れ家サロンっていう方向性にしたんです・・・。
それって、今思うと、『現状に逃げ込んでいた』んじゃないかって思ったんです」
「ん~~・・・、まぁ、もがくことはすげぇ重要だからよ、そう自分を否定する必要はねぇんじゃねぇか?
最後に、一緒に笑ってればいいじゃねぇか・・。 なぁ」
ウルフさんは、小さな牙をニィっと見せて、もへこに笑いかけました。
「なぁ、コウちゃん! オメェにとって、『一番いい状態』ってなんだよ?」
「一番いい状態・・・・」
コウちゃんは考え込んでしまいました。
「ボクは、この川を守りたくて・・・・それで、この川にとどまっていて・・・」
「じゃぁ、この川にとどまっているのが、一番いい状態なのか?」
「そうじゃない・・・・そうじゃない・・・でも、
・・・今は、何が一番いいのか、わからない・・・」
「コウちゃんが、誰よりも川を守りたがっていること、すげぇわかったよ。
だからよ、一緒に可能性を考えていこうぜ!」
「か・・・可能性?」
「そうだ! 『可能性』だ。
もしもコウちゃんがあと1週間そこにいたとして、川はキレイになるか?」
「・・・・・・・・・・・・・、ボクの姿を見て・・・・・・・・みんながキレイにしてくれる・・・。
みんなが、口コミで広げてくれて、ボクを救ってくれる・・・・・・・」
「じゃぁよ、ブタのロビンスが取った行動は覚えているか?」
「ボクを、引きずり出そうとしたよ・・」
「それ以外に、おめぇを救おうとした奴はいたか? ごみを一個でも拾った奴はいたか?」
「・・・・・・いないよ・・・。みんな無責任なんだ。 本当にこの川を守ろうとしてないんだ・・」
「コウちゃん、いいか!?
人のためだけに行動をする奴なんて、滅多にいねぇんだ。
みんな、何かしら自分の為に行動をしている!
現に、コウちゃん自身がそうじゃねぇか。 人の為に行動してねぇじゃねぇか」
「ぼ・・・・ボクは、みんなの為に耐えてるんだ! この川を守ってるんだ!」
「いい加減にしてよ!!」
もへこが叫びました。
「コウちゃん・・・ウルフさんは、この川に来る時にこう言ったの。
『自分を救えるのは、自分だけだ』って。
私は、その意味がずっとわからなかった。 ウルフさんなら、力ずくでもコウちゃんを引き上げてくれるって思ってた・・・。でも、ウルフさんがそれをしない意味がわかった気がするの・・。
ウルフさんが話しをしていることは、『可能性』の話なんだって。
コウちゃんを助けるだけなら、きっと力ずくでできる。
でも、『コウちゃんの可能性を助けたい』から、それをしないんだってわかったの!
コウちゃんの可能性を殺しているのは、コウちゃん自身じゃない!」
「・・・・ボクが、ボクを殺している・・?」
「・・・もへこも言うようになったじゃねぇか・・」
ウルフさんは、くしゃっと笑い、もへこの頭をポンっとたたきました。
そして、その場にどっかりと座り込むと、ゆっくりと大きな声でコウちゃんに言いました。
「さぁ、そろそろ、コウちゃんの可能性の話をしようぜ!」
コウちゃんは言葉を失ってしまいました。
「さぁ、もう一度聞くぜ! コウちゃんにとって、『一番いい状態』ってなんだ?」
「この川が、昔みたいにキレイに戻ってほしい・・。
それは、キレイごとじゃなくって、ボクはここに住んでいたいんだ。
そう・・・そうなんだ! ボクはここにいたい! きれいな川にいたい! 本当はこのままでいたい!
それが一番いい状態なんだよ!! ボクは、きれいな川に戻して、そこに住んでいたいだけなんだ!」
コウちゃんの目が輝きだしました。
「そうかぁ! コウちゃんはこの川が大好きなんだな! すげぇ感動したぜ。
じゃぁよ、一緒に、コウちゃんが住める川に変えていこうぜ! 応援すっからよ!」