「お~い、気持ちいいかぁ~?」
ウルフさんは、川に着くと、開口一番でそう言いました。
「き・・気持ちいいさ! 自分の家だからね! 落ち着くよ」
コウちゃんはがたがた震えながら言い放ちました。
「ほらよ、本人は気持ちいいってさ」
「そんなの、嘘ですよ! やせ我慢してるんですよ!」
二人もいると気が狂いそうだからという理由で、一人だけ連れてこられたもへこが言いました。
「じゃぁよ、逆にもへこに聞くけれど、なんであいつが『嫌がっている』って思うんだ?」
「え・・? それは、あんな汚い水に浸かっていたら、弱って死んでしまうからです・・・。」
「そりゃぁ、オメェ自身のフィルターじゃねぇか。あいつは『気持ちいい』って言ってる。
まずは、そいつを受け止めねぇと、現状の課題は把握できねぇぞ」
「現状の課題ですか・・・?」
「あぁ、あいつが汚ねぇ水に浸かっていて死に掛かってるってぇのは、『現象』でしかねぇ。
根本的な課題は何かわかるか?」
「出たがらない・・・って言うことですね」
「そうだな。そこに対してアプローチしねぇと、日が暮れちまうぜ。よし、これも練習だ。
一緒に考えていこうぜ」
「そ・・・そんなのんびりしてたら、コウちゃんが死んじゃいますよ!」
「違うな。 例え力ずくであいつを動かしても、きっとこの川に帰ってきて、ひっそりと死んじまうぜ。
あいつが、あいつの力で課題から抜け出るようにするために、俺たちはオロオロしてちゃいけねぇんだ。
俺たちが構うほど、あいつは『悲劇のヒロイン』に浸って、余計に課題が見えなくなっちまう」
「う・・・ウルフさん・・・。」
「いいか・・・あいつは、わかってるんだ。 自分がここにいちゃいけねぇことが。
本当は抜け出したくてしかたねぇのに、ひねくれたプライドにしがみついてるんだ。
『自分は悪くない』 『周りの人が悪い』 『こうなったのも周りのせいだ』 って、逃げてんだよ」
「なんだか・・・・・コウちゃんは、私です・・・。」
「ん? どういうことだ? もへこ。」
「私、ウルフさんと出会う前まで、本当はわかっていたんです。自分のお店の経営がこのままではいけないこと。
このままだったら借金が増えて、死にはしないにしても、お店をやっていけなくなること・・。
でも、ずっと周りのせいにしたり、『いつか何とかなる』って、言い聞かせていたんです。
だから・・・コウちゃんは、私です。ウルフさん・・・私を助けてください!」
「・・・・・・・・・よし、任しときな!」
ウルフさんは、もへこの頭をポンっとたたきました。