ウルフさんの『逆境を成功に変える鉄板法則』

11.それぞれの泥んこスピリッツ

それから1ヶ月が経ちました。

ウサギの『もへこ』は、自慢のアロマテラピーサロンを開店する準備をしていました。
お部屋を掃除し、ラベンダーのエッセンシャルオイルを炊きました。
お店の中にほのかに爽やかで穏やかな香りが漂い、もへこは新しい今日の訪れに対する期待感で胸がいっぱいでした。

「さぁ、今日も新しい1日が始まるんだ!
あぁ~、楽しみだなぁ。本当に自分がやりたいことを、自分で選択して進んでいけるなんて、素敵だなぁ」
もへこは嬉しさのあまり、鼻歌を歌って踊りだしました。

・・そこへ・・・。

ドンドンドン!!!

「おはようございます。 川のチラシを見てきたんですが・・・」
「はぁ~い、いらっしゃいませ!」
もへこが扉を開けると、小さなロバの奥さんが立っていました。

「あのぉ・・このチラシを見たんですが、次回の川掃除に参加するという形で、今日のトリートメントを受けることはできますか?」
「ありがとうございます! もちろん大丈夫ですよ」

「よかったぁ~。実は、最近みんなが取り組んでいる川の掃除に興味はあったんですけれど、なんだか不安で・・。
ここでトリートメントを受けながら、ゆっくりお話を聞ければと思ったんですよ・・」
「あら、そうだったんですね」

「だって、たまにオオカミのウルフさんもいるでしょ?
最近は全く別人になったって聞いてはいますけれど・・・やっぱりまだ不安で・・」

「あぁ、ウルフさんですね。 その話なら明け方までできちゃうくらい、私はウルフさんのファンですよ♪」

もへこはカモミールティーをロバの奥さんに差し出しました。

「でも、川の掃除に興味をもたれるなんて、私が言うのも変ですが、奥様は素敵な考え方を持っていらっしゃるんですね。 私たちのやっていることに共感していただけて嬉しいです!

ではまず、こちらのカウンセリングシートにご記入いただけますか?」

ロバの奥様はゆっくりとエンピツを持ち、カウンセリングシートを書き始めました。

コンコン・・・
ロビンスの治療院の扉をノックして、キリンのおじさんが入ってきました。

「やぁ、約束どおり来たよ」

キリンのおじさんは、川の掃除を手伝ってくれたお礼にロビンスが指圧を施したキリンさんでした。
その時に、こんなことを言っていたのです。

「いやぁ~、気持ちいいなぁ。 ワシはこんな首だから肩がこってしかたないんだが・・・こんな図体じゃろ?
どうも指圧とかに行きにくくてなぁ~・・。
お前さんのところに行っても、迷惑じゃないかい?」

「何言ってるんですかぁ。 全く問題ないですよ!
むしろ、キリンさんのような方に来ていただきたいんです。
大きさ的にベッドは使えませんが、マットも用意してありますので、そちらで受けてください。
いつごろが都合がいいですか? その時に空けときますよ!」

「本当かい? うれしいなぁ。 興味本位で川掃除をした甲斐があったよ。
じゃぁ、今度の土曜日の・・・昼過ぎではどうかね?」

「わかりました。 じゃぁ、13時にお待ちしていますね。もしも都合が合わなくなったりしたら、ご連絡下さいね!」

「あぁ。 こんなに気持ちいいなら、キリンのボーリング仲間にも声をかけておくよ」
「うわぁ。ありがとうございます! 嬉しいです!」

・・その時のキリンさんが、約束どおり来てくれたのです。

帰り際には、「仲間にも教えたいから」ということで、チラシを沢山もって帰っていきました。
嬉しい流れが、ロビンスの治療院にもきていました。

「よっこいしょ・・・っと」
コウちゃんは自分の身長よりも大きなゴミを、川岸に運び込んでいました。

「はっはっは、無理すんなよ、コウちゃん! 俺たちもいるんだからよ!」

クマさんが、大きなゴミをお手玉のようにくるくるさせながら言いました。

「ありがとうございます! でも、ボクだって負けませんよ!!」

「コウちゃんはすごいなぁ・・・。そんなに小さな身体なのに、ここにいる誰よりも頑張ってるじゃないか。
こりゃぁ、おじさんも負けてられないなぁ」

「ありがとうございます! たまには休憩して、ロビンスの指圧も受けて下さいね!」

「あれは病み付きになるからなぁ~。 そのまま寝ちゃってもしらんぞぉ~。 ガハハハ!」

川の浄化プロジェクトは、着実に参加する人を増やしていました。

コウちゃんが『ドロドロさよなら戦略』を指揮し、川の掃除をしました。
ウルフさんが『サラサラこんにちは戦略』を行い、上流にネットをはりました。
もへことロビンスが『みんなで守ろう戦略』の中心となり、共感する人集めを行いました。

そして全員が『泥んこスピリッツ』を持ち、本気で行動を起こしました。

すると、不思議なことに、『泥んこスピリッツ』は、『泥んこスピリッツ』を生み出し、育てていってくれました。
いつの間にかコウちゃんの思いは波及をし、『自分のこと』として川を浄化する人が増えてきたのです。

最初に立てた戦略や解決策が役に立ったのは、その後でした。 「まずは、人ありき」だったのです。