その日の夕方、プッチとミケは眠そうな目をこすりながらウルフさんの家にやってきました。
「おぅ、その様子じゃぁだいぶ考え抜いたみてぇだな。
で、『東京に行くことにしました。何で行きますか?』の答えはでたかい?」
ウルフさんの問いかけに、プッチが眠そうな目を見開いて答えました。
「はい。
前の話で、『整合性』っていうキーワードがあったので、それに照らし合わせてみると、
この課題には足りない部品があることがわかりました。
それは、『現在地』と、『到着時間』と『行く目的』です。
どこから、いつまでに、何のために行くのかというパーツが揃わないと、この課題の答えは出ない。
逆に言えば、『現在地と目的地。そして到着時間の目標と行く目的がわかれば、方法は決まる』ということだと思います」
「なるほどな。 ミケはどうだ?」
「えぇ。最初は『目に見えるもの』から考えていたんですが、
『見えていないもの』を知ることの方が大事だって感じました。
『今あるもの』を理解して、『足りないもの』を見つけないと、答えはでないっていうことがわかりました!」
「見えていないものってぇのは、例えば、どういうことだ?」
「ん~~~、なんというか、『何を持っているか』だけではなく、
『何を見るのか』かなって・・・」
「僕たち、昨日の夜に話し合っているときに、『この質問はパズルみたいだね』っていう話をしていたんです。
ジグソーパズルのピースを握りしめながら、どこに置こうかをずっと考えている感覚でした。
でも、途中で気づいたんです。
『完成図のないジグソーパズル』・・・つまり、目標も目的もなくパズルを作っているって」
「そうなんです。 その『見えない完成図』を見たとき、自分が握りしめているパズルのピースだけじゃ、絵が完成しないことに気づいたんです。 このピースと、このピースが足りない! って・・」
「『ミッシングピース』っていうやつだな」
「ミッシングピース?」
「そう。 パズルで足りないピースのことを、『ミッシングピース』っていうんだ。
でも、これを知るためには、ある程度パズルを完成しなっくちゃいけねぇし、
パズルを完成させるためには、パズルの完成図を知っていなくちゃいけねぇ。
これは、個人サロンでも一緒だ。
多くの個人サロンが、『自分には、何があるか』・・・つまり、持ていっるピースは、わかってる」
「僕なら、『集客に対する自信』ですね・・・」
「私なら、『技術に対する自信』ですね・・・」
「そうだ。
でも、『個人サロン』という完成図が見えたとき、足りないピースがあることに気づくはずだ」
「あの・・・まだ、個人サロンの完成図が見えてこないんですが、見えるようになりますか?」
プッチは、恐る恐る尋ねました。
「あぁ、がんばれば、必ず見えるようになる。俺は、そのために話しているつもりだ。
昨日、個人サロンに必要なキーワードを、たくさん出してもらったよな」
「はい。 ぐちゃぐちゃに書きなぐったやつですね」
「そうだ。 あれが今のおめぇたちの頭の中だっていう話はしたよな」
「パズルのピースがぐちゃぐちゃに並んでいるだけですね・・・」
「その時に、こうすれば考えが整理しやすいっていう話をしたけれど、覚えてっか?」
「え~~っと、ミケちゃん、なんだっけ?」
「確か・・・『型』ですよね?」
「そうか、『フレームワーク』っていうやつだね」
「その通り。 これで話が繋がってきたな?」
「今、頭の中にある個人サロン運営の断片・・・つまり、ピースを整理する・・・っていうことですよね」
「パズルにたとえると、たくさん並べたキーワードが『ピース』で、フレームワークが『完成図』ですか?」
「そうだけれど、微妙に違う。
フレームワークは、『完成図を作りやすくするもの』でしかねぇ。
『パズルを、四隅から作っていく』とか、
『シンボルになるものを、だいたいの場所に置いてみる』とか」
「『パズル作りのコツ』・・・つまり、個人サロン経営のプランを立てるときのコツみたいなものですね」
「その通り。 じゃぁ、あと足りねぇのは、『パズルの完成図』だよな」
「完成図のないパズルは、作れない・・・
つまり、どんなに技術があっても、どんなに知識があっても、それぞれの部品をどうやって配置すればいいのかっていう完成図がないと、個人サロンの運営は難しいっていうことかぁ・・・」
「最初の私たちは、自分の持っているピースだけを握りしめて、もめていたのね・・・」
「今考えると、ちょっと情けないね・・・」
「いやいや、最初は誰でもそんなもんだ。『どうしたらいいのか、何が問題か』がわからなくて悩む。
俺だって、何度も途方に暮れた夜があったんだ。
でも、それを一つ一つ超えていけば、必ずパズルは完成する。 今から楽しみじゃねぇか」
ウルフさんは、プッチとミケの頭を、ポンポンと軽く叩きました。
「おめぇたちのここには、でっけぇ可能性が詰まってる。 それを信じていきゃぁ、大丈夫だ。
あとは、その可能性のピースを、きちんと配置できりゃぁ、パズルは完成するんだからよ」
「それぞれの部品をどうやって配置すればいいか・・・かぁ・・」
プッチは両肘をテーブルについて、考えこみ始めました。
そんなプッチを見ていたミケが、何かを思いついたようにつぶやきました。
「部品をどうやって配置すればいいか・・・・それが、『整合性』ですね?」
「そうだ。 キーワードが繋がってきたな。
完成図は、部品の整合性によって作られるんだ。
そして、せっかく作るのであれば、きれいな絵の方がいいだろ?
お客さんは、完成図のキレイな絵に惹かれて、サロンへやって来ると考えたほうがいい。
それぞれの部品の段階では、何の訴求力も持たないって、割り切ってみると、整理しやすいかもしれねぇな」
「キレイな絵・・・整合性・・・関連性・・・ それって・・・」
「私たちが最初に考えた課題。『枯れかかっている木』の時のキーワードですよね?」
「その通り。 1日目と2日目の課題は、実は繋がってる。
というよりも、ほとんど同じことを考えてもらっているって言っても間違いじゃねぇ」
「ミケちゃん1日目の僕らの答えって・・なんだっけ?」
「えぇ~~~っと、『枯れかかっている木があります。何が問題でしょう?』の、答えよね・・・」
「そうだった! えぇ~~っと・・・えぇ~~っと・・・」
「もう一回、その課題にしようか?」
「待って下さい! 思い出しますから!」
「木の種をまいて、根っこがはって、芽が出て、幹が太くなって、葉が茂って・・・」
プッチとミケの二人は、課題のときに何度も繰り返した言葉を、もう一度つぶやきました。
「そうよ。 根っこと、幹と、葉っぱと、そして土の関連性が大事っていうことだったわ」
「そうそう。 それ自体だけが大事じゃなくって、全体の繋がりが大事っていうこと!」
「根っことか、幹っていうのは、部品であって、木っていうのは、完成図っていうことね・・・」
「そうだった。
『木は、木そのものと、木を取り巻く環境の整合性で成り立っている』っていうのが、答えだ!」
プッチがもう一度自分の言葉に置き換えて、課題の答えを言いました。
「見えてきたな。 その通り、木は整合性で成り立っている。
それだけじゃねぇ、俺たちの体も、地球そのものだって、『整合性』で成り立ってる」
「生きているんじゃなくて、『生かされている』って、そういうことなんですね・・・」
「そこでだ。 いよいよ『個人サロンのフレームワーク』について話していくぜ?」
「えぇ~~っと、ミケちゃん。 フレームワークってなんだっけ?」
「もう忘れちゃったの? 『型』のことよ!」
「キーワードがいっぱい出すぎてて、頭がこんがらがってて・・・」
「ミケのほうは、頭の中がすっきりしてきたみてぇだな。
プッチのほうは、まだ感覚的につかめていねぇようだな。
でも、どちらがいいっていうわけじゃねぇ。吸収力に差があるのは当然だ。
ミケのほうが吸収力があるように見えるけれど、実は応用力がねぇかもしれねぇ。
プッチの方が吸収するスピードは遅いけれど、1度腹に落ちたら自分のものにする力が高いかもしれねぇ。
それはわからねぇけれど、間違いのないことは、
『最終的に、自分のものにしていれば、早くても遅くても関係ない』っていうことだ。
プッチは焦る必要はねぇぜ。 ゆっくりいきゃぁいいんだ」
「そうよね。力を合わせて頑張っていきましょうね!」
プッチとミケは、改めて固い握手をしました。
「さて、個人サロンのフレームワークについて話していくぜ?」