ウルフさんの『個人サロンができるまで』

プッチとミケの会議 ②   ~東京へ行く方法~

「・・・ウルフさん、相変わらずの無茶ぶりね・・・」
「もう答えって出てるのにね・・。僕は車、ミケちゃんは新幹線って・・・」

今日も、プッチの家に集まった二人は、コーヒーを一口すすると、すぐにそう切り出しました。

「・・・でもきっと、何か理由があるのよね・・・」
「そうだね・・。 これまでのキーワードと照らし合わせながら、考えてみよっか。
まずは、『思考のねじれ』でしょ」

「それと、『卵の殻と黄身』の話ね」
「そして、今日出てきた『目的地と行き方』だね」

「あと、もう一つあったわ。 『整合性』とか『関連性』っていうキーワード。
これが大切なんじゃないかしら」

「東京に車や新幹線で行く整合性・・・か」
「つまり、つじつまがあっていなければいけないワケね」

「そうだね。 じゃぁ、逆に考えてみよう。
東京に新幹線で行くのに、『つじつまが合わない場合』は?」

「そんな場合、あるのかしら・・・・。 みんな新幹線で行ってるよね・・・」
「そうだよね。 強いてあげるとすれば、『最初から東京駅に居るとき』くらいだよね・・」

「・・・!? プッチ、今なんていった?」

「え? 最初から東京駅にいるなら、新幹線で東京駅に行く必要はないって・・・」

「それじゃない!?
ウルフさん、『今いる場所』については、何も言わなかった!」

「あ! そうか・・・。 外国からだったら飛行機だし、品川だったら山手線で行ける・・・」

「『目的地』に行くための『手段』って、今いる場所によって変わるのよ!
それなら、『徒歩』っていう可能性も出てくるわ」

「よぅし、この答えは、『今いる場所によって変わる』だね!」
「ウフフ、今日は早く寝られそうね♪」

プッチとミケは、オレンジジュースで乾杯をして、夜の11時ごろには眠る準備をしました。
プッチはソファで、ミケはベッドでウトウトと眠りにつき始めました。
今日は穏やかな夜が、プッチの家に訪れています。
プッチはソファで丸くなって、ミケはベッドですやすやと眠っていました。

秋の夜の森は、ちょっと冷たい空気がひんやりと流れています。
落ち葉が夜風に撫でられて、シトシトと音を立てているようでした。

夜の2時を回ったころです。
突然プッチが大きな寝言を叫びました。

「遅刻するぅ~~~~!!!」

その大きな声に、ミケだけじゃなく、寝言を言ったプッチ自身も飛び起きました。

「なになに!? プッチ、どうしたの?」

「ハァ・・・ハァ・・・ 夢かぁ・・・」
「な・・なに? 遅刻する夢でも見てたワケ?」

「そうなんだ・・。 副店長をしていたお店に、遅刻しそうになってる夢を見たんだ・・・怖かったぁ~」

「まだ副店長だった時の感覚が抜けていないのね。 でもまぁ、それだけ仕事熱心っていうことよね。
次はいい夢見れるといいわね。 おやすみ」

「うん、おやすみ・・・」

ミケは布団にくるまりなおして、もう一度眠りにつく体制を整えました。
プッチはまだドキドキしているので、暗い天井を見つめてぼんやりと考え事をはじめめました。

しばらく考え事をしたあと、プッチはミケに声をかけました。

「ねぇ、ミケちゃん。 起きてる?」

「ん? 起きてるけど・・・。 どうしたの? 眠れないの?」

「うん、ちょっと何か見え始めてて・・・」
「何か? 夢占いでもしてるの?」
ミケは肩をすくめながら、クスリと笑いました。

「そうじゃないんだ・・。僕ね、夢の中で、本当はいつもの電車で仕事に向かってたんだ・・・。
でも、間に合わないから、途中でタクシーに乗り換えたんだけれど、渋滞にはまっちゃってて・・・。
それで走って・・・それでも遅刻しそうになったんだ・・・」

「ふ~ん・・。 でも、夢でよかったわね」
「うん。 それでね。
『東京に行く手段は、現在地によって変わる』っていう答えに、足りないものに気づいたんだ・・・」

「足りないもの?」

「うん・・・
僕ね、夢の中で、家から仕事場まで、電車で行こうとしてた。
でも、仕事に間に合わなさそうだから、タクシーに乗り換えたんだ。
それでも間に合わなかったから、最後は走ったんだけど・・・・」

「うん。 足りないものって・・?」

「なんんていうか・・・ ん~~~、なんていうんだろう。 これ」

「『状況』・・・かしら?」

「それもそうなんだけど・・・。 なんていうか、『なんで走ってたのかな』って考えちゃって・・」

「間に合わなかったからでしょ?」

「そうなんだ。 単純に考えると、『時間』なんだけれど、それだけじゃないんだ」

「何かしら・・・。『東京に行く手段は、現在地と到着時間によって変わる』じゃぁ、ダメかしら?」

「うん、その通りなんだけれど、なんかこう・・・。あと一つあるような・・・」
「何かしらね・・・。 あと一つ・・・」
「なんだろう・・あと一つ・・・」

結局二人はもうい一度丸いテーブルに座りなおして、コーヒーを淹れなおし、もう一度考え始めました。

再び眠りにつく頃には、やはり空は明るくなり、小鳥のさえずりが聞こえ始めていました。