その日の晩、リスのプッチと、ネコのミケは、プッチの家で温かいコーヒーを飲んでいました。
ウルフさんから渡された紙を丸いテーブルの中心に起き、斜め45度の角度で紙を見つめています。
「状況が曖昧だわ。 これじゃ答えなんて出やしない!」
ミケが、ひげを軽く伸ばしながらいいました。
二人はもう2時間ほど話し合ったのですが、まだ答えを出せずにいました。
何度考えても、何を考えればいいか分からず、二人ともイライラしていました。
「そんなこと言ったって仕方ないよ。 ちゃんと考えようよ・・」
プッチが、丸い尻尾を一度振って、言いました。
「でも、枯れかけた木なんて、見てみないと原因はわからないわ」
「そうだけど、きっと何かあるんだよ」
「だって、それならもっと詳しく木の状況を書いてあるはずよ。これじゃぁ、考える材料が足りなさすぎるわ」
「それはおかしいよ。 ウルフさんは、何か考えがあって、この課題を出しているはずなんだ・・・」
「でも・・・もう2時間も話しているのに、何も答えが出てないわ・・。
これじゃぁ、明日になっちゃう」
二人は背中を丸めながら、3杯めのコーヒーに映った自分の顔を眺めました。
「枯れかけた木か・・・。 まるで私たちの独立の思いみたいね・・」
ミケがつづけて、ポツリとつぶやきました。
「なんで枯れちゃったのかしら・・・」
「・・・なんで枯れちゃったのかしら・・・」
ミケが、今度は何かを思いついたように、少し力を込めて言いました。
「プッチ、この木って、きっと私たちのことよ」
「え?」
「『枯れかけた木』って、私たちのことだわ。 それは、何が問題なのかを聞いているんじゃないかしら・・」
「僕たちの問題・・・?」
「ほら、ウルフさん、最初に言ってなかった?
『二人には問題がある』って・・・何が問題だったかしら・・・」
「なんだっけ・・・。僕らの問題・・・」
「そうよ、最初もこんな感じだったわ。 私たち、こういう話し合いをしながら、少しずつぎくしゃくしていったのよ。 そこには、何か問題があったはずだわ」
「でも、自分の問題って、自分じゃわからないし・・」
「それよ!」
ミケが、プッチの顔を指差して、目を大きく開いて言いました。
「ウルフさん、言ってたわ。 『でも』とか『それはおかしい』っていう言葉を使うと、思考がねじれるって!
私も、いつの間にか使ってた・・・」
「それで、話が堂々巡りになったのか・・・・」
「ウルフさん、こうも言ってたわ。『否定的な言葉を使わないことがルールだ』って・・」
「よし・・・じゃぁ、もう一度ルールに沿って考えてみようよ」
「わかったわ。 まず、枯れかけた木があるっていうことよね・・これは、何かの例えなんじゃないかしら」
「なるほどね。 そう考えると、確かに『僕らの問題』を例えているっていうのが、合っている気がするね。
じゃぁ、何が『問題』なんだろう・・」
「きっと、『いがみ合っていてはいけないよ』っていうことじゃないかしら・・」
「そういう考えもあるね。 他には、何かキーワードはなかったっけ・・」
「そうね・・・・。 あれは? 『卵の殻と黄身』の話」
「あぁ、外も中も、両方大事っていう部分だよね。これを木に当てはめてみると・・・・
木の外側って、なんだろう・・・」
「木の外側・・・・。 幹と葉っぱよね・・・。 じゃぁ、内側は?」
「木の内側・・・年輪・・・?」
「そういう考え方もあるけれど、もっと他にないかしら・・・」
「内側・・・・、中身・・・・、大切な部分・・・・、これがないと木じゃなくなる部分・・・外からは見えない部分・・・」
「それって・・・」
「そうだね! 今、同じことを思ったよね! 『根っこ』だ」
プッチとミケは、ウルフさんのメモ用紙に、木の絵を描きました。
「木にとって大切なものは、葉っぱと幹と根っこだね」
「えぇ、葉っぱと幹は、外から見えるもの。
根っこは、外から見えないもの。 つまり、中身ね」
「『枯れかけた木』は、このどれかに問題があるんじゃないかな」
「葉っぱが悪かったら、木はなかなか養分を作り出せないわ」
「そうだね。 それに、木の幹が弱っていたら、風とかで倒されちゃうよね」
「あと、根っこがしっかりとはっていなかったら、栄養分は吸い上げられないわ」
「じゃぁ、どれが『問題』で、木は枯れかけてるんだろう・・・」
「葉っぱか・・・幹か・・・根っこか・・・よね」
「まって・・・・ミケちゃん、この木の絵、まだ何か足りない・・・」
「え? 葉っぱと、幹と、根っこと・・・・、木の実?」
「それもそうだけど、もっと大事な何かが・・・・」
「なんだろう・・・。 『木』にとって大切なもの・・・」
「なんだろう・・・。 答えは近づいている気がするのに」
「そういう時は、ゼロからゆっくり考えてみましょう。
まず、木が大きくなる前の状態。
木の種をまいて、根っこがはって、芽が出て、幹が太くなって、葉が茂って・・・」
「木の種をまいて、根っこがはって、芽が出て、幹が太くなって、葉が茂って・・・」
プッチとミケは、この言葉を何度の何度も繰り返しました。
何度も絵を描いて、何度も話あって、何度もゼロに戻って、答えを探します。
そうするうちに、外が少しずつ明るくなってきました。
二人は呪文を唱えるようにしながら、ゆっくりとテーブルにうつ伏せになって、眠りに落ちていきました。