ウルフさんの『個人サロンができるまで』

技術が大事か、経営が大事か!? ~その2~

ニンジンのピクルスを口に運ぶと、ウルフさんはニンマリとしました。
それから、カモミールティーをグビっと飲んで、再び話を切り出しました。

「で、プッチはすぐにでも開業してぇんだよな?」

「えぇ、物件の候補も見つかっていますし、開業準備に入りたいです」

「じゃぁよ、もしも『すぐに開業できる』ってなったら、どんな順番で開業していくんだ?
今の話だと、まずは、物件を契約するよな?」

「そうですね・・・。まずは、物件を契約して、内装を作って、チラシを作って、集客をして・・・」

「そういえば、物件って、どんなのなんだ? テナントか?」

「いえ、駅から徒歩5分くらいのマンションの1室です。 だから、内装っていっても、二人でやれば時間はそんなにかかりません」

「なるほど。 じゃぁ、プッチが自信を持っている『集客』はどうしていくんだ?」

「まずは、オープニングキャンペーン割引をして、お客様を集めたいと思います。
そのあとは、オープニングで来てもらった人にクチコミで広げてもらいたいと思っています」

「そうか。 最初の集客は、チラシでしていくのか? 地域情報誌か?」

「はい。 ポスティングチラシと、ホームページで集客しようと思います」

「ホームページも使うんだな。 サイトはもう出来てるのか?」

「いえ、まだですが、少しずつ作っています」

「プッチが作ってるのか?」

「はい。 前のお店でも、紹介用のページをホームページソフトで作っていましたから、作るのは簡単にできます」

「へぇ~、なるほどな。
ちょっと突っ込んで聞くけどよ、『オープンしたら、集客には自信がある』ってぇのは、なんでそう思うんだ?」

「前のお店で、集客に苦労したことはないんです。
決してすごく売り上げていたわけではありませんが、それでもチェーン店の中ではそこそこの売上を上げていましたから、安定的に利益は出ていました。
だから、経営については自信があります!」
「そうか。 前の店ってぇのは、どんな店だったんだ?」

「たぶん、ウルフさんも聞いたことがある、リフレクソロジーの大手サロンです。
全国に80店舗くらい出店しているから、業界的にはまぁまぁの規模ですよ。そこの副店長でした」

「なるほどな・・・」

「私は、そこの従業員でした。
プッチの独立の話を聞いて、私もチャレンジしてみたいと思ったんです。
もともと、アロマセラピーの技術は持っていましたし。

でも、いざ開業するとなると、もっともっと考えなきゃって思って・・・」

「そうかぁ~。 話はだいたいわかったぜ。
で、今はどう思う?

『技術』が大事か、『経営』が大事か・・」

「う~~ん・・・」

プッチとミケは、目を合わせて考えこみました。

「どっちも大事な気がします・・・。逆に困ってしまったような・・」

「そうだな。 この質問を突き詰めていくと、答えはでねぇと、俺は思う。
たとえば、黄身のない卵って、卵っていうか?」

「考えにくいですね・・・」

「卵ってのは、殻は食べねぇだろ? だったら、中身だけでいいじゃねぇかって気もするが、そういうわけにはいかねぇよな。
中身があるのは、外があるからだ。

個人サロンの経営も、同じだと思うんだ。

技術は、サロンにとって欠かすことのできねぇ中身だけれど、そのためには外の殻がなくちゃいけねぇ。
それが、『経営』だと思う

つまり、技術も経営のなかの、ひとつのパーツなんだと思うんだ」

「技術が、経営の中のひとつ・・・わかるような・・・わからないような」
困惑しているプッチとミケに、ウルフさんは穏やかに言いました。

「わからなくて、あたりめぇだ。 それでいいんだ。

おめぇたちは今、新しい問題にぶつかってる。従業員っていう立場から、『個人サロン経営者』として、経営の立場に身を置こうとしている。
それを解決するには、新しい考え方が必要だ」

「新しい考え方・・・ですか」

「あぁ、個人サロンオーナーとしての、新しい考え方だ。
プッチとミケが喧嘩になったのは、二人にこの考え方がなかったからだ」

「それは、どんな考え方なんですか?」

「まぁ待て。 今ここで言っても、ただの言葉で終わっちまう。
そこで、こうしようじゃねぇか、今から二人に問題を出すから、それを明日までに解いてくるってのはどうだ?
そうやって、一歩ずつ、確認をしながら進んでいかねぇか?

プッチも、開業に焦る気持ちはわかるけれど、数日間なら大丈夫だろ?」

「はい・・わかりました。 一歩ずつ進んでいけるのであれば、お願いします」

「よし、じゃぁ、二人に考えてきてもらう問題は、これだ!」

ウルフさんは、近くのメモ用紙を取り出すと、短い文章を書きました。
それを手渡されたプッチとミケは、キツネにつままれたような顔をしながら、聞きました。

「ウルフさん・・・ これだけですか?」
「あぁ、自分たちなりの答えを、1日かけて考えてみてくれ! じゃぁ、明日のこの時間に、ここでな!」

紙には、こう書かれていました。
『枯れかかっている木があります。 何が問題でしょうか?』