ウルフさんの『個人サロンができるまで』

集客ツールも、奥に並べる!

残り1切れの、最後の桃のバウムクーヘンを食べて、ウルフさんは言いました。

「さぁ、いよいよ集客の方法だな。 プッチは最初、『ポスティングチラシとホームページで集客する』って言ってたよな。
あと、ミケは『クチコミで集客する』って言ってたよな。
結局、どうやって集客するか、イメージはつかめたか?」

「いえ・・まだなんです。 確かに僕は、チラシとホームページでって思っていたんですが、色々と考えているうちにわからなくなりました・・・」
「わたしも、『クチコミなんか、しねぇと思っとけ!』って、誰かに怒鳴られたし・・・」

「ウルフさんは、集客にとって一番いい方法を知ってるんですか?」

「『集客にとって一番いい方法』なんてのは、基本的にはねぇんじゃねぇかなぁ。
まぁ、強いて言うなら『直接コミュニケーションがとれる方法』が一番確実かな。
イベントに参加して、お客様と直接話すとか、自分の友達に会って話をするとかな。

でも、それよりも、もっと知っておかなきゃいけないのは、『一番しちゃいけねぇ方法』だ」

「え!? そんなのがわかっているんですか!?」
「それ、教えてください!」

「一番しちゃいけねぇ方法は、『1つの方法だけに頼ること』だ。直接コミュニケーション以外のな。
クチコミなら、クチコミだけとか、
チラシなら、チラシだけとか・・」

「え? でも、たくさんの道具を使うと、それだけ経費もかかっちゃうし・・・」
「それに、『うちのサロンは、クチコミだけなんです』っていうサロンもいっぱいあるような・・・」

「おめぇたちのいいてぇことも、確かにわかる。そういうサロンも、あるからな。
でも、『何が本質か』を考えてみるんだ。

確かに、クチコミだけで集客できれば、すごくいいことだと思うし、
もしかしたら、そういったサロンもあるのかもしれねぇ。
そして、人のサロンがそれを実現していたら、『いいなぁ~、自分もそうしよう!』って、思うかもしれねぇ。

だがな、『個人サロン経営』をシビアに考えたときに、それが『いい方法か』っていうと、そうじゃねぇと思うぜ?」

「シビアに考えたときに・・・?」
「あぁ。 クチコミだけで繁盛するサロンは、たとえばチョウチョみてぇにキレイに見える。憧れるよな。
でも、蝶々になるには、醜い芋虫の時代があるんだ。 その苦労をしっかりと見なくちゃいけねぇ」
「あの・・・ちょっと質問なんですが・・」
「どうした? ミケ」

「クチコミって、直接コミュニケーションに入らないんでしょうか?」
「そうだよね、ミケちゃん。 クチコミって、直接の人伝えだもんね」

「違うな。 クチコミは信頼性の高い情報伝達手段でしかねぇ。人を媒体としての広告だ。
オレが言った直接コミュニケーションってのは、自分が直接会って話すっていうことだから、クチコミとは違う」

「じゃ・・・じゃぁ、クチコミだけに頼っちゃダメって言うことですか?」
「もちろん、クチコミだけで集客できたら一番いいんだろうけれどな。お金もかけなくって済むしな。
でも、特に最初は、やめたほうがいいと思うぜ?

クチコミで集客をすると、人間関係ビジネスに入り込んでいく。
人を管理するほうが、チラシを配るよりもはるかに難しいぜ?
自分にマネジメントの力量があるのなら、良好な関係を築けるだろうけれど、力量がないうちは、
変な噂まですぐに広がっちまう。クレームも多くなるかもしれねぇ。

だから、ビジネスとして考えると、特に最初のうちはクチコミだけでの集客は危ない。
たとえ、クチコミをしてくれる人がいたとしてもだ」

「クチコミ以外だと、どんな集客方法がいいのかしら・・・」
「ホームページとか、チラシとかがいいのかなぁ・・・」

「ちょっと待った! おめぇたち、もしかして今、戦術のことで頭がいっぱいなんじゃねぇか?
これまで、さんざんやったろ? サロン運営で真っ先に考えなきゃいけないことは、なんだった?」

「えっと・・・いかに集客するか・・・じゃなくって」
「いかに利益を出すか・・・?」

「おめぇら、もう一回最初からやり直すか?

『自分のサロンの目的と目標を実現するために、コンセプトを作って、それを貫くための戦術を考える』
っていう、プラン全体の整合性だ!

どれだけ集客の方法ばっかり考えたって、一番いい答えなんてでねぇよ!
『自分のサロンの目的を実現するためには、どうすればいいのか』を考えるんだ。

プッチ、おめぇのサロンのコンセプトはなんだった?」

「えぇっと・・・
『クイックマッサージでは満足できない深い疲れを持った方に、
アロマトリートメントとリフレクソロジーを融合した技術で、高い満足感を提供して、喜んで頂く』・・です」
「そうだ! 集客ツールは、絶対にそこから考えなくちゃいけねぇ。
でないと、部品の整合性が取れなくなって、走ってるうちに車はばらばらになっちまうぞ!?」

「で・・・でも、整合性なんてどうやってとったらいいか、まだわからないし・・・」
「このコンセプトにとって、どんな集客ツールを作ったらいいのか、わからないわ!?
チラシなのか・・・ホームページなのか・・・クチコミなのか・・・」

「もう一度言うぜ?
集客ツールは、コンセプトとの整合性が取れていることが重要なんだ。
たとえば、『一人一人を大切に』ってうたっているのに、『次のお客様がいる場合はお帰りいただきます』って書いてあったらおかしいだろ?

『クイックマッサージでは満足でいない深い疲れを持った方』に来てもらいたいのに、
『忙しいあなたのための10分コース』って書いてあったらおかしいだろ?

『高い満足感を提供して喜んでいただく』はずなのに、
『スタッフ大募集! 初心者歓迎』って書いてあったら、おかしいだろ?

そういうことだ。 整合性が取れていることが大事なんだ」

「『1つの方法だけに頼ること』がダメなら、2つ以上ならいいんでしょうか?」

「そう。複数あったほうがいい。
だけどな、ただ単純にいくつも集客ツールを使えばいいかっていうと、そうじゃねぇんだ。
集客ツールも、奥に並べたほうがいい」

「集客ツールを奥に?」
「メニューの話と合わせて考えると、集客の段階を作るっていうことでしょうか?」

「その通り。 『集客ストーリーを作る』 とも言う」
「集客ストーリー!?」

「あぁ、人は、同じ情報を同じ場所で見ると飽きるけれど、同じ情報を違う場所で見ると信頼する傾向がある。

たとえば、毎日同じ折込チラシが入ってくると、『またか・・・うっとうしいなぁ・・』って思うけれど、
今日入っていた折込チラシと同じ情報を、たとえば街の看板で見かけると、
『あ、今朝見たやつだ。けっこう有名なんだな・・・』と、興味を持ち始める可能性が高くなる。

人は、違う場所で同じ情報に触れると、信頼し始める傾向があるっていうのを、うまく活用するんだ」

「そういえば、わたしが使っているクリーニング屋さん、何回もチラシを見たはずなんだけど、
使い始めた決め手は、いつも言っている美容院にそのクリーニングの伝票が置いてあったことだったわ・・・。
チラシだけじゃ、行こうと思わなかったと思う」
「そういえば、僕のお気に入りのラーメン屋さん、何回もお店の前を通ったけれど、
通い始めた決め手は、たまたまインターネットで見かけた街の情報サイトだった・・。
何度もお店の前を通ったはずなのに、行ってみる気持ちになれなかったんだ・・・ 」

「意外と、思い当たる節はあるだろ? もちろん、1発で集客できるケースもあるけれどな。

お客様は情報を蓄積していくんだ。 同じ情報ばかりだと飽きちまうだろ?
だから、複合的に集客ツールを使って、集客効果を高めていくんだ」

「それを利用して、集客ストーリーを作るっていうことか・・・」

「集客ツールは、ただ複数使えばいいっていうもんじゃねぇ。
お客様が、どんな順番で情報を見るのか、考えてみる必要があるんだ。

たとえば、チラシを見て、『サロンのホームページはこちら』って書いてあったら、チラシからホームページに移動するパターンは考えられるよな。
名刺でも、地域情報誌でも何でもいいけれど、紙媒体からホームページには移動させやすい。

けれど、ホームページを見た後で、『チラシはけっこう配っていますので、探してみてください』なんて書いても、
ホームページからチラシへの移動は難しい。

ということは、『チラシとかを見てくれた人が、ホームページを見たときに、信頼度が高まる』ように、ストーリーを作っておく必要があるんだ」

「そうか・・・。 よく見かける『続きはウェブで』っていうのも、集客ストーリーなんですね!?」
「最近多いわよね。 テレビCMとかでダイジェストを流して、ホームページに集客するケース」

「そうだな。 あれも集客ストーリを作っているからだ。
『CMを見た人は、きっとこう思う。 だからホームページでは、こんな情報を出しておこう』ってな」

「そう考えると、ファミレスとかに置いてある『QRコードでクーポンをGET!』っていうのも、集客ストーリーよね!」
「本当だね。 割引っていう入り口でお客様をスマホサイトに呼び込んで、スマホサイトの中では『スマホをかざすだけで割引になります』っていう情報を配信して会員を増やし、リピーターにしようとしているんだ・・・」

「『集客ツールも奥に』ってぇのは、なんとなくわかってきたみてぇだな。
おめぇたちのサロンで考えると、たとえば、

QRコード付の小さなパンフレットとか、ポストカードなんかを、近所の家にポスティングするとする。
そっから、サロンのスマホサイトに誘導して、まずはサロンの情報を知ってもらうんだ。
QRコードは、無料で簡単に作ることができるし、携帯サイトも無料で作れる。」

「スマートフォンサイトには、どんなことを書けばいいんでしょうか・・・」

「最近だと、縦長のランディングページだったり、集客方法も変わってきてるから一概には言えねぇけど、
今のミケとプッチのスタート段階なら、コンセプトに沿った内容をまずは書いてみな。

強いてポイントを挙げるとすれば、
『文字数を少なくして、シンプルで力強くコンセプトを発信すること』
『一本釣りを狙うんじゃなく、次の扉に進んでもらうことだけを考える』
『写真は、必ずサロンの雰囲気がわかるものを選ぶ』っていう、3つかなぁ」

「文字数のことはなんとなくわかるわ・・・。 文字がずらぁ~って並ぶだけで、読む気がなくなっちゃうもん。
でも、『一本釣り』って、どういうことかしら・・・」

「『お客様との関係性を作る作業を飛ばして、すぐに集客しようとするメッセージ』のことだ。
さっきも言ったよな、メニューは奥に並べるって。 そうしたほうが、集客率は上がるはずなんだ。

でも、例えば極端な話、『このサイトを見て24時間以内にご予約いただいた方だけ、2000円オフ!』なんてやると、お客様は拒絶反応を起こすか、安い料金で受けたいだけの1回限りのお客様しか来なくなっちまう」

「え!? じゃぁ、割引をしちゃだめなんですか・・・!? わたしなら、初回だけでも安くして欲しいわ・・・」

「割引をしちゃだめなわけじゃねぇ。
でもそれならば、『お得感のあるお試しコース』を作ったほうが絶対にいい!」

「その2つは、どう違うのかしら・・・」

「例えば、『初回限定 6000円のコースを3000円割引!』って書いちまうと、割引目的のお客様が来る。
でも、『最初のお客様 お試し30分 3000円コースがありますので、安心してお試しください!
もちろん、お試しコースをきっかけに強引な勧誘をすることはありません。
ご来店の後に予定を入れてご来店いただいても、安心して時間通りにお帰り頂けます』って書けば、
興味があるから1回試してみたい、っていうお客様を集客できるだろ?
集客の段階で、興味を持っている人を絞り込めていることになるんだ!」

「そうかぁ。 割引キャンペーンをやるからお客様が来るわけじゃないんだ・・・」
「考えなきゃいけないのは、反応するお客様よりも、集客できるお客様・・・っていうことなのね。
『集客できるお客様』っていうのは、『お客様をはぐくむ』っていう観点が必要になるんだわ・・・」

「うん。 完璧なお客様を最初から狙うような、楽する姿勢はいけないけれど、
予め興味を持ってくれる人だけがご来店されるように絞り込んでいくっていうのは、大切なんだね!」

「そうだ! 興味を持ってくれる人に反応してもらえるようにするのが、集客ストーリーなんだ。
そして、ストーリーには、始まりがあれば終わりもあるよな?
集客ストーリーを作るときは、必ず始めと終わりを意識するようにするんだ!」

「『はじまり』はわかるけれど、終わりってどういうことなのかしら・・・」
「『終わり』は、この場合、『集客すること』だと思ってくれ。
もちろん、終わりがあれば始まりがあるから、集客した後に関係性の構築が始まるんだが、今は集客のことを考えよう。

集客のはじめは、わかったよな。 『どんなきっかけで知ってもらうか』だ。
そしたら、そこで一本釣りをするんじゃなく、次のステップへ進んでいただくこともわかったな?
例えばスマホサイトとかだ。

その次は、メールマガジンの読者になってもらったり、ブログのリピーターになってもらったりすれば、
さらに興味を持ってもらえるはずだ」

「あの・・・」
「どうした? プッチ」

「メールマガジンとか、ブログはやっぱりやったほうがいいんでしょうか?」
「個人サロンなら、どっちかは、やったほうがいいだろうなぁ。どっちも無料でできるしな。
それを機に関係性を作れるのであれば、やらないよりもいいだろ?」

「でも、わたしの友達のサロンで、『毎日ブログを書いているんだけれど、ぜんぜん集客できない。コメントはたくさんあるのに・・・。その対応に追われて大変なだけなのよ』って言ってる子がいるんですが、
ブログって、そんなに反応がないんじゃないかしら・・・」

「集客ツールで反応がないのは、2つのポイントが抜けているからだ。
1つは、集客ストーリーの出口がないこと。
もう一つは、引っ張り型と、出っ張り型の、両方のツールを使い分けていないことだ」

「また新しい言葉が出てきたぞ・・・」
「集客ストーリーの出口がないっていうのは、なんとなくイメージできるわ・・。
日記みたいなブログをたくさん書いているサロンは、確かに親近感は沸くけれど、
サロンに行く決定的なきっかけがないもの・・・。 読んでるだけで終わっちゃうことが多いわ・・」

「そうだよね・・・。確かに、親しみを持ってもらうことは大事だし、それをきっかけとして反応があることもあるかもしれないけれど、僕らがやりたいことは『仲良しごっこ』じゃなくって、個人サロン経営なんだもんね!」

「プッチ、頼もしいことを言うようになったじゃねぇか!
その通りだ、個人サロン経営は、仲良しごっこじゃねぇ。 仲がいいのにこしたことはないけどな」

「基本は、できて当たり前。 技術はうまくて当たり前。 お客様を大事にして当たり前。
そして、お客様と良好な関係を築いて当たり前なのね・・・。 どんな価値を乗せるのかのほうが重要なんだわ」

「ミケも、ナナコにいっぱい大事なことを教わったんだな。
集客ストーリーは、入り口を作ったら出口を作らなきゃいけない。 ブログを毎日書いてるだけじゃダメだ。
例えば、『ブログ読者限定割引』でもいいかもしれねぇ。 集客にどうつなげるかが大事なんだ!」
「ウルフさん、じゃぁ、『引っ張り型と出っ張り型』って、どういうことなんでしょうか?」
「デコボコツールっていうことかしら・・」

「プル型と、プッシュ型とも言う。受身型と積極型でもいい。
例えば、ブログって、積極的なアプローチがかけられるか?」

「積極的って言っても、記事をたくさん書く・・・とかしか思い浮かばないわ・・」
「ブログを書いても、誰が読んでくれているかわからないしね・・積極的かというと、そうじゃない気がするなぁ」

「そうなんだ。 ブログは、受身型なんだ。 自分で集客をコントロールできないツールだ。
一方で、チラシを配るとか、ポスティングするっていうのはどうだ?」

「確かに、配れば配るほど、反応率は高まっていくわ・・・自分でコントロールすることができる気がする」
「反応率がいいかどうかは別として、『お客様の手元に届けている』っていう感覚はあるよね」

「そうだろ? チラシとか、ポスティングとか、地域情報誌とか、イベントとかは、積極的にアプローチができる集客方法なんだ。

じゃぁ、サロン経営的にはどっちがいい?」

「う・・・久しぶりにウルフさんの質問が来ましたね・・・。
確かに、積極的にアプローチができるのは大事だと思うけれど、やっぱりブログとかで集客したほうが楽な気がするわ・・・。 わたしは、受身型のほうが大事だと思う。  プッチはどう思う?」
「ん~~・・・僕はチラシとかの積極型のほうが大事だと思うなぁ。 だって、自分のがんばりでコントロールができるようになるしさ」
「でもきっと、『両方大事』なのよね・・・」

「そうだな。オレの思考がだいぶ読まれてるみてぇだな。
確かに、両方とも大事だ。 でも、さらに言えば、その順番が大事なんだ。

ミケが言ったみてぇに、受身型の集客ツールのほうが、楽だ。
ブログを書くだけ、ホームページを更新するだけだからな。

でも、プッチが言ったみてぇに、それだけじゃ積極的なアプローチができないし、自分で集客をコントロールできなくなっちまう。

だから、一番いいのは、『両方を使って、最終的には積極型から受身型に移行する』っていう考え方だ」

「そっか! 集客ツールを奥に並べるっていうことね!?」
「ミケちゃん・・・どういうこと?」

「だからぁ、チラシとか地域情報誌とかを使って、ブログとかホームページのリピーターに育てていけば、
将来的にはブログとかホームページの運営だけで、ある程度集客できるようになるっていうことよ!」
「そっか・・・。 どちらかだけでもダメだし、ただたくさん使うだけでもダメ・・・。
そこに、どんな集客ストーリーを描くのかが大事なのか!」

「あとは、メールマガジンだな。
メルマガは、うまく使えば強力なツールだ。 なんといっても、受身型と積極型が同居してるんだからな」

「どういうことですか?」

「メールマガジンだけで運営している時は、単なる受身型だ。 メルマガを書いてたって、お客様が増えていくわけじゃないだろ?

でも、うまく集客ストーリーを描いて、メルマガ読者を増やせたら、話は別だ。
メルマガを書いているだけで、お客様の懐に飛び込んで、積極的にアプローチをしていることになるからな」

「そうか、そのために、受身型と積極型を使いこなした集客がいるのね!?」
「QRコードでスマホサイトに誘導して、ブログに誘導したり、メールマガジン会員に誘導したりして、少しずつお客様との信頼関係を作っていくのか・・・」

「何度も言うが、一発で集客できることだって、あるんだぞ?
でもそれは、数学の教科書を読み飛ばして、最後のページの問題を解くようなものだ。
頭のいい一部の人間しかできねぇ。

つまり、サロンでたとえると、『最初から興味を持っている人』とか、『感性がすごく近い人』っていうことだ。
けれど、ほとんどの人は、教科書を順番に読んで勉強していかねぇと最後の『集客』っていう問題には応えられねぇだろ?

教科書を、どちらに合わせて作るかって言ったら・・・」

「もちろん、『ほとんどの人』に合わせて作ってあげるべきね・・・」
「読み飛ばして、最後の問題に応えられる人がいたとしても、教科書だけは順番につくったほうがいいね・・」

「そうだろ? だから、集客ストーリーも、使うかどうかはわからねぇし、その通りに行くとはかぎらねぇ。
だが、作っておく必要があるんだ。 一番理解度がスローな人でも、最後の問題に応えられるようにしておけば、全員が応えられるって言うことだからな!」

「ウルフさん、メールマガジンは、毎日出さなきゃいけないんでしょうか?」
「そうよね・・あまり毎日だされても、嫌よねぇ・・」

「それは、内容による。 例えば、営業メールが毎日来たら、それはうっとうしいだろうな。
でも、『今日の湿度から考えるスキンケア』っていうメールマガジンがあって、
今日の湿度は何パーセントだから、お肌の手入れはこうしましょうっていう内容が毎日届いたら、
これはアリだろ?
『営業してやろう』っていう気持ちじゃなく、『お客様のため』であれば、毎日だっていいはずなんだ」
「たしかに、占いは毎日見ても飽きないものね・・・。営業メールじゃなきゃ、毎日でもいいのね」
「じゃぁ、今週のスキンケア予報 とかを、毎週出してもいいっていうことだね」

「そうだな。 いろんなアイデアが出てくるだろ?
そして、そういった『お客様のためメール』をせっかく配信するなら、できるだけ名前入りにしたほうがいいな。
今は、お客様一人一人に個別に名前が差し込まれる機能がついてるメール配信ソフトもあるから、
本気でメルマガをやるなら、そういった機能は大切だと思うぜ?

あとは、配信先を振り分けられる機能だな。
フェイシャルのお客様と、ボディのお客様では、当然興味が違ってくるわけだから、そういった細やかな配信設定ができるといいな。

まぁ、『営業』じゃなくって、『手紙』だと思って突き詰めていけば、自然とそうなるしな」

「アイデア次第・・・やりかた次第っていうことですね」
「なんだか、メールマガジンもできそうな気がするわ!」

「さてと・・・・。

これで、最後の2つ、
『メニューを奥に並べる』っていうことと、
『集客ツールも奥に並べる』っていうことは、わかったな?」

「・・・はい。 わかりました」
「わたしも、一番気になっていた部分がわかってスッキリしたわ! なんだか、できそうです!」

「そうか。
じゃあよ、『一番難しいこと』って、なんだったか・・・覚えてるか?」

ウルフさんの家に、一瞬、沈黙が訪れました。

 

 

3人が座るテーブルには、桃のバウムクーヘンが入っていたお皿が、何も乗っていない状態で置いてあります。
プッチとミケは、そのまんまるなお皿の中心を見つめて、少しの間、唇を一の文字にしてうつむいていました。

「はい・・・。 覚えています。 実行すること・・・ですね?」
プッチが、ウルフさんの目を見て言いました。

「そう。 実行することが、一番難しい。

オレがこれまで話した内容を、このバウムクーヘンの入っていた皿に例えて、何ていうか知ってるか?」

「え? バウムクーヘンのお皿に!?」
「そう、この空っぽのお皿に例えて、『机上の空論』って言うんだ」
「え!? ・・・それって、そのままの意味での『机上の空論』ですか・・?」

「そう。 オレが話した内容なんざ、すべて机上論だ。
いいか、これまでのこと、全部忘れてもいいから、これだけは覚えといてくれ。

現場が、一番正しいんだ。

これからおめぇたちが立ち向かう現場そのものが、教科書になるはずだ。
オレが言ったことは、基本中の基本でしかねぇ。
現場で起こることは、もっと複雑で、もっと多彩だ。

だから、現場レベルで判断をしていくことが大切だ。
その時に、オレの話が、ほんのちょっとだけでも役に立ったなら、オレは幸せだぜ」

「ウルフさん・・・・それって・・・」

「あぁ。 俺の話は、これでおしまいだ。
おめぇたちは、『個人サロンを作るまでに考えておかなきゃいけないこと』を、ずいぶん考えたはずだ。
あとは、それを軸にして、がんばってくれや。

ワライダケのことは、本当にすまなかったな。 これで、チャラな」
といって、ウルフさんはニカッと笑いました。

「ウルフさん・・・・・・」
ミケは、目にうっすらと涙を浮かべて、うなだれていました。
プッチは、決意に満ちた目で、バウムクーヘンの空皿を見つめていました。

「『困ったら、またいつでも来い』なんてことは、もういわねぇ。
おめぇたちは、これから個人サロンオーナーになるんだからな。 何が起こっても、自己責任だ。
それが、個人で仕事をするっていうことだ。 誰のせいにもしちゃいけねぇ。
どんなことが起こっても・・・だ。 歯を食いしばってでも、がんばらなきゃいけねぇし、
どんなに悲しいことが起こっても、お客様の前では笑顔でいなくちゃいけねぇぞ?
ミケ・・・泣くな」
ミケは、大粒の涙を流して、声を殺して泣いていました。
プッチは、涙をこらえるようにして、丸いお皿を見続けていました。

「さぁ、これはオレからの餞別だ。 ジンジャーティーは身体にいいからな、特性のジャムの瓶を、おめぇたちにやるよ。 つらくなったらこいつを飲んで、がんばりな」

「ウルフさん・・・ありがとうございました」
「僕も、がんばります! サロンができたら・・・いえ、サロンが繁盛して、胸を張れるくらい一人前になったら、
ぜひサロンに遊びにいらしてください!」

「ばかたれ。 おめぇたちが一人前になる頃には、おれはじいちゃんじゃねぇか」

といって、ウルフさんはカラカラと笑いました。

秋の森の、ふわふわの赤いじゅうたんに、ひらひらと赤い葉が舞い落ちていきます。
じゅうたんの上につもる羽のような葉音が、今日は天使が微笑んでいるような笑い声に聞こえました。

 

 

『ウルフさんの 個人サロンができるまで』 ~おわり~