ウルフさんの『個人サロンができるまで』

メニューを奥に並べる

あと二切れある桃のバウムクーヘンのうちの1つを食べて、ウルフさんは言いました。

「おめぇたちは、『何をやっているサロンなんですか?』って、質問されたら、何て答えるんだ?
じゃぁ、技術メインのミケ!」
「は・・はい! わたしたちのサロンは、アロマセラピーのお店です!」

「・・・それでお客様が、『あら素敵ね! じゃぁ受けてみるわ』って、言うのか?」
「そ・・・それは・・・」
「プッチはなんて答えるんだ? 店長だろ?」

「え~~っと・・・。 はい、アロマセラピーのお店です! 30分から受けられるので、お気軽にいかがですか?」
「・・・おめぇたち・・・。もう一回最初からやるか?」

「えぇっと、えぇっと・・・。 そうだ! 質問するんだ!
『アロマセラピーのお店です! どこか、お疲れのところはありませんか?』」

「それじゃぁ、駅前の大手サロンの勧誘と同じじゃねぇか!
駅前でよく『リフレクソロジーのサロンです。お疲れいかがですか~?』って、チラシ配ってるけれど、
『お疲れいかがですか?』の意味がわかんねぇんだよ。

それじゃぁ、あれだぞ。
『バナナで~す。 お腹いかがですか?』って聞くのとおんなじだぞ? そんなんで買うか?」

「え? バナナって・・・どういうことですか?」
「おめぇたちは、『アロマセラピー』とか『リフレクソロジー』とか『レイキ』とか、そういった言葉自体に付加価値があるように考えているかもしれねぇが、そりゃぁ技術名だ。 果物で言ったら、バナナとかリンゴとかっていう品種名とおんなじじゃねぇか!

メニュー表に、
『リフレクソロジー 30分 3000円    50分 4500円』って書いたら、
『バナナ      中サイズ 100円    大サイズ 250円』って書くのと同じだぞ!?

どんなバナナなのか伝えなきゃ、買ってもらえるものも買ってもらえねぇ。
甘いのか、安いのか、実が詰まってるのか、地面に置くと人を転ばせやすいのか!」

「技術名は、品種名と一緒・・・・ ウルフさん、わたし、目からウロコです!」
「僕も、技術名を並べたメニュー表を作るつもりでした・・・」

「さっきやったろ? お客様は絞らなきゃいけねぇって。メニュー表でも、お客様は絞れるんだぜ?
『肩を直接ほぐしても疲れが取れない方向けのリフレクソロジー』っていうメニュー名にすりゃぁ、それ自体でお客様を絞り込めるじゃねぇか!」
「そんなネーミングでもいいんですね!」
「メニュー名だけで、キャッチコピーになるのね・・・」

「オレが開業前に相談にのったサロンが、『よだれが出そうになるロミロミ』っていうネーミングにしたんだ。
アパートの一室で、一人で隠れ家サロンを開いて、2ヶ月くらいで売り上げが40万円を越えたぜ?
もちろん、ネーミングの力だけじゃねぇが、お客様からの評判が良かったのは聞いてる」

「なるほど、ホームページの構成も作り変えなきゃ・・」
「プッチ、ホームページで思い出したけれど、サロンのホームページで一番見られるのは、『メニュー』のページだ。
次に『サロンについて』とか『セラピスト紹介』なんだ。

つまり、一番アクセスの多いページで、サロンのブランドを主張できたら、強いじゃねぇか」

「そうなんですね! 単にメニューが並んでるよりも、ネーミングにこだわったほうが、訴求力がありますよね・・」

「あとな、メニューは横に並べるんじゃねぇぞ? メニューは奥にならべんだ!」

「どういうことですか? メニューを・・・奥に!?」
「わたしもさっぱりわからないわ・・・ 奥に!?」

「あぁ。多くのサロンが、メニューをメニュー表のように、箇条書きでずらぁ~っと並べちまう。
それをオレは、テーブルにものをずらぁ~って広げるみてぇだから、『横に並べる』って言ってるんだ。

でも、おめぇたちは『お客様は自分のニーズに気づいていない』って言うことを学んだだろ?
つまり、お客様は、並んだメニューからは自分で決めることが難しいんだ」

「確かに・・・。わたしがたまに行くレストランは、メニューがずらぁって並んでて、美味しいんだけれど選ぶのに迷っちゃうわ。 だからついつい、お店の季節のオススメを頼んじゃう・・・」
「そうか! オススメを、前に出すって言うことですね!?」

「プッチ、その通りだ!
メニューは、入り口となるものを前に出しておく。そして、もうちょっと料金が高いものを奥に置いとくんだ」

「ウルフさん・・・、わたしはまだ『奥に置く』っていう意味が良くわからないんです・・・」

「入り口でお客様をある程度絞るっていうのはわかるよな。
たとえば、入り口となるメニュー、つまり『手前のメニュー』は、チラシにしてもホームページにしても、地域情報誌にしても、1番大きく、極端な話、それ1つだけを乗せるんだ」

「チラシに、メニューを一つだけですか!? それって・・・無謀なんじゃ・・・」

「ついつい、『お客様が好きなものを選べるように』って思っちゃうわ・・・
あ・・そっか! 『お客様は、選ぶのが苦手』だからですね!?」
「あぁ。 迷って選べないかもしれないメニューをたくさん並べるよりも、
自分が絶対の自信を持っていて、初回のお客様に必ず満足していただけるお得なコースを1つだけ載せたほうが、
間違いなく効果はあると思うぜ?」

「ついつい欲張って、あのメニューもこのメニューもって考えちゃうけれど・・・実は逆効果なのね」
「でも、他のメニューは載せちゃダメなんですか?」

「ダメっていうことは、もちろんねぇよ。
ただ、載せるにしても、文字の大きさを変えるとか、配置を変えるとか、
とにかく、一番オススメのコースが、一番目立たなきゃだめだ」

「入り口は、なんとなくわかったわ。 でも、『奥』っていうのはどういうことなんですか?」

「あぁ、1回目のお客様は、『わかりやすい、入りやすい、リーズナブル』っていう3拍子で集客する。
たとえばそうだな・・・
『今夜の寝つきグッスリ体感! お試し20分 1800円コース
~いつもの格好でお気軽に受けられます☆  今夜ゆっくり眠れるか、ぜひお試しください!~』

っていう、お試しコースでお客様を集客したとする。 これが、入り口だ。
このコースなら、『眠りが浅くて困っている』っていうお客様を絞って集客できるだろ?
来店してくださった時点である程度のニーズがわかってる。

そうすると、来店してくださった時に、『眠り』について、お客様の話を聞くことができるだろ?
『どこがお疲れですか?』なんて聞かなくても、来店してくださった時点で『眠りで悩んでる』ことは明確だ。
よほど接客べたじゃない限り、話がスムーズに進むはずだ。
『わたしも昔は寝つきが悪かったんです~。大変ですよね~』なんて言いながらな。

そうすると、さらに深いお客様のニーズがわかるだろ?
たとえば、眠りが浅いのは、実は肩がこっているからかもしれねぇ。 腰が痛いからかもしれねぇ。
パソコン疲れで自律神経のバランスが崩れているのかもしれねぇ。

ここで重要なのは、『眠り』っていう、共通意識の上で、話を進められるっていうことだ。
ここで話があっちまえば、サロンのファンになってくれる確率はぐっと上がるだろ?」

「わたしのこと、よくわかってくれてる・・・って、思ってもらえそうですね!」
「ヤミクモに集客するよりも、ぜったいにいいですよね」

「お客様のニーズがわかれば、次はお客様のニーズに合わせてご提案すればいい。
『肩のお疲れで寝つきが悪いようでしたら、
今回のコースに30分のボディトリートメントをつけるとすごくいいですよ!』
ってな。 これで、そのお客様の客単価は3000円くらい上がるだろ?
これが、1歩奥に進むっていうことだ。
最初っからボディを勧められたら断るお客様も、自分のニーズに合わせて提案してくれれば試してくれるはずだ」
「なんか、『ボディトリートメントをつけたほうがいいですよ!』じゃなくって、
『ボディトリートメントをつけると、すごくいいですよ!』っていう言い方が、優しくて好きだわ」
「そうだね・・・。 何でそんなに響きが違うんだろう?」

「それはな、人には『他人を応援したくなる心理』が働くからだ。 何気ない言葉に、それがあらわれるんだ。
『つけたほうがいいですよ!』って言うと、『あなたは、これをつけたほうがいい』っていう、本人の問題になっちまうから、自分で判断をしだしちまう。 お客様に判断を委ねると、出てくる答えは大体NOだ。

でもな、『つけると、すごくいいですよ!』って言うと、『私はいいと思っています』っていう意味になって、
他人事として捉えはじめる。 そうすると、『この子がこんなにいいって言ってるんだから、受けてみようかな』って、『応援するために受ける気持ち』が生まれてくるんだ」

「なんだか、『受けることが、自分にとっても相手にとってもいいこと』って思えちゃうわ・・言葉って不思議」

「とにかく、そうやってもう1歩奥に進んでもらったら、しばらく様子を見て、さらに奥に進める。
そうだなぁ・・・、いきなり『さぁ奥へ!』ってなると、相手も警戒するから、だいた2~3回くらい同じコースを受けてくれて、信頼関係ができたらかなぁ。

そうしたら、こう言うんだ。
『ここに通っていただけて、少しでも楽になっていただけたみたいで嬉しいです。
今だと、月に1回のペースで通っていただけていますが、このペースが一番通いやすいですか?
それなら、月1回のペースで全身の疲れをトータルリフレッシュする6回プログラムがあるんです』ってな。

あとは、たとえば
『今、月々6000円のコースを受けていただいていますよね。
でも、こちらの6回コースだと、8000円するコースが6回分で本当は48000円なんですが、
セットにすると42000円なんですよ。 ちょうど今受けてもらっている6000円分が浮く計算なんです。

今のコースよりも、本当はもうちょっと長く受けたいっていう場合は、こっちのほうがお得になるんですよぉ』

って言えば、そのお客様は高い確率で6回のリピート顧客になるだろ?
そして、客単価は1000円アップする。
もちろん、お客様が嫌がったら、これまでどおり受けてもらえば問題ない」

「『本当はもうちょっと長く受けたい場合は』・・・っていうのが、うまいわね」
「誰だって、本当は長く受けたいに決まってるもんね・・。 ニーズを言い当てる・・かぁ」

「まぁ、こういう方法もあるっていうことだ。
なんにしても、『メニューを奥に並べたほうが、効果的』っていうのは感じただろ?」

「はい! ウルフさんのオネェ言葉が聞けてよかったです!」
「ばかやろ。 見るポイントはそこじゃねぇよ・・・」