森の木々が赤く染まり、落ち葉のじゅうたんがふかふかになった、ある秋の昼下がりのことです。
ふかふかのじゅうたんを、シャリシャリと気持ちいい音を立てながら歩いてくるオオカミがいました。
この森の中ではちょっとした有名人なので、もうご存知の方もいるかもしれませんね。
そうです、ちょっぴり乱暴だけれど、不思議と物知りな、オオカミのウルフさんです。
ウルフさんは、山で採れた豊富な秋の収穫を袋に詰めて、上機嫌でおうちに帰っていくところでした。
「今日はたくさん取れたなぁ~。特にキノコがすげぇ!
こいつぁ、なんていうキノコだろうなぁ・・。 なんか紫と茶色の不思議な組み合わせだけど、
キノコには変わりねぇし、生で食っちまっても大丈夫だろう。
あとは、カワウソのコウちゃんに魚を分けてもらって、キューっといっぱいやるか!」
そんな独り言をつぶやきながら森を歩いていると、切り株のテーブルをはさんで向かい合ったリスとネコに出会いました。
リスとネコはなんだか口論をしています。
「だからぁ、もう一度技術を磨きに、一緒にスクールに行こうって言ってるんじゃない!」
「技術なんか、サロンを開いたらついてくるよ! それに、スクールのお金だってどうするのさ!」
ウルフさんは、おやおやと思いながら、横を通り過ぎようとしました。
その間にも、口論はどんどん進んでいきます。
「お客様に喜んでいただく技術があって、はじめて開業が可能なんじゃないの!? 言ってること間違ってるワケ?」
「君はサロン経営については素人だろ!?
サロンビジネスはね、技術を追い続けるだけじゃだめなんだよ!
どんなにいい技術があったって、ちゃんと集客できなきゃ、個人サロンは潰れちゃうよ!」
そこでウルフさんは、ちょっと立ち止まり、ポソリとつぶやきました。
「なんでぇ、個人サロンのことでもめてんのか・・・」
ウルフさんは、個人サロンで困っている人をほうっておけない性分なのです。
それは以前、アロマセラピーサロンで困っていたウサギのもへこのおかげで、森の仲間に入れてもらえた経験があるので、個人サロン業界には恩返しをしたいと常々思っているからでした。
しかし、何も知らない自分が口を出すのもどうかと思い、山菜を探すふりをして、こっそりと、もう少し話を聞いてみることにしました。
『技術が大事』と言っていたネコのほうが、再び口調を荒げてリスに詰め寄ります。
「プッチこそ、技術は素人でしょ!?
私は、アロマセラピーとリフレクソロジーとレイキの資格を持ってるワケ!
大手サロンでの勤務経験だって、私の方が長いわ。
プッチはリフレクソロジーのスクール資格しかもっていないじゃない!」
『経営が大事』と言っていたリスは、怒りで尻尾を震わせながら言いました。
「僕はその大手サロンで、副店長を務めていたんだぞ!?
サロンの運営のことは、ミケちゃんよりも理解しているんだ!
それに、一緒にサロンをやりたいって言ったのは、君のほうだろ!?」
「私は、技術でお客様を大切にする隠れ家個人サロンを開きたいの!
でも、経営がわからないから、一緒にやりたいって声掛けたんじゃない。
『技術を大切にする』っていうのは、最初に理解してくれていたでしょ?」
「理解してるよ!
理解してるから、3ヶ月間もアロマセラピーの新しい技術を習得するのを待ったんじゃないか。
その間のスクール費用は、半分僕が出してるんだよ!?
それなのに、『ハワイアンロミロミも習いたいから、あと3か月勉強したい』って、どういうこと!?」
これは話が終わらないなと思ったウルフさんは、ついに二人に声をかけることにしました。
「なんだぁ、もしかして、サロンの運営についてもめてんのか?」
「あ、ウルフさん、こんにちわ。
そうなんですよ・・ もう開業準備は整っているのに、ミケちゃんが、『もう一度技術を勉強するべきだ』っていうんですよ。 そんなこと言っていたらいつまでたっても開業なんてできやしない!
技術なんて、実践で身につけるものですよね?」
リスが尻尾をくるくる巻きながら言いました。
「誰も、技術だけあればいいって言ってるんじゃないわ。
技術に少しでも不安があるのなら、不安をなくしてから開業しましょうって言ってるワケ!」
ネコがひげをぴんと立てながら言いました。
『ウルフさん、技術と経営は、どっち先に必要だと思います?』
2匹は声をそろえて、ウルフさんに詰め寄りました。
「そんなもん、決まってるじゃねぇか。『両方』だよ。
ホレ、さっきとってきたキノコをやるから、ちょっと頭を冷やして考えなって。
このキノコなら、生でも食えそうだからよ」
ウルフさんは紫と茶色のキノコを二人にあげて、ジェントルに立ち去りました。
「さてと、家に帰ってキューっといっぱいやるか」
後ろからは、二人の笑い声が聞こえてきます。
「なんでぇ、やっぱりちょっとしたきっかけがあれば仲良くなれるんじゃねぇか。
いいことしたなぁ、オレ」
後ろの笑い声は、どんどん大きくなっていき、大爆笑になりました。
「うんうん、『雨降って地固まる』ってぇのは、こういうことだな」
後ろの笑い声は、笑いすぎてむせこむくらいになっていきました。
ウルフさんが、おかしいなと思って、後ろを振り向くと、
そこには笑いすぎて痙攣をしている2匹の小動物がいました。
「ウ・・・ウルフさん、これ、ワライダケ・・・・」
「なんだってぇ~!? 大丈夫か!?」
ウルフさんが慌てて駆け寄ると、2匹は笑いすぎて気を失ってしまいました。
笑いすぎて気を失ってしまったリスとネコが目を覚ましたのは、その日の夕方過ぎのことでした。
先に目を覚ましたのは、リスのほうでした。
「う~ん・・・ここは?」
「おぉ! 目が覚めたか!?
悪かったなぁ・・・変なもの食わしちまって・・。
ここは、おれの家だ。」
「あぁ、ウルフさん。 ずっと看病してくれてたんですね・・」
「あたりめぇじゃねぇか。 オレが持ってきたキノコのせいだからよ」
「う~ん・・・・・・腹筋イタイ・・」
「あ、ネコのほうも目が覚めたな。 すまなかったなぁ」
「そうか・・・わたしたちはサロンの運営のことでケンカをして、
キノコを食べて笑い転げて・・・」
「さっきはごめんね、ミケちゃん」
「ん~ん、わたしこそ、ごめんね。
プッチも、おなか大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。
僕たち、もうちょっと冷静に話し合ったほうがいいみたいだね」
「そうね。勢いだけで進んでしまっては、うまくいくものもいかなくなっちゃうもんね」
「どうやらオメェらは、個人サロンの開業のことで悩んでいるみてぇだな。
『技術が大事か、経営が大事か』で、もめてたもんな」
「そうなんです。
ウルフさん、『技術も経営も、両方大事』っていうことについて、もう少し教えてもらえませんか?」
「あぁ、変な物食わせちまったお詫びもあるし、オメェらのサロン開業につきあってやるよ!
それで、今回のキノコのことはチャラだからな」
「ありがとうございます! ぜひよろしくお願いします!」