ロビンスの焼き鳥屋は、その後お客様の流れが止まることはありませんでした。
羊のおばあちゃんと、カメのおじいちゃんが口コミをしてくれて、ロビンスの焼き鳥屋を広めてくれたのです。
ピーク時には、もへこもお手伝いをしなくては、お店がまわらないくらいになりました。
日がすっかり暮れて、精霊祭りのキャンプファイヤーが始まり、みんなが大合唱をするころには、屋台に来るお客様はまばらになっていきました。
みんな、お祭りの最後を飾るキャンプファイヤーの周りに行ってしまう時間帯です。
屋台を出している人たちは、少しずつ片付けをはじめていました。
「本当に大盛況でよかったね、ロビンス」
もへこが周りに散らかったゴミを片付けながら言いました。
「・・うん。本当によかったよ。」
ロビンスは、焼き鳥を焼く台をごしごしこすりながら応えました。
ウルフさんはキャンプファイヤーの周りで『ワォ~~~~ン』と元気に遠吠えをしていました。
「どうしたの? なんか、元気ないみたいだけど・・」
「いや、焼き鳥が沢山売れて嬉しいんだけど、ちょっと考え事をしていたんだ。
なんか、最後のほうは『啓発型クロージング』を実践する暇もなく、お客様がどんどん来てくれたから・・」
「なんだか不完全燃焼なのね」
「うん、そうなんだ」
「屋台って、行列ができているところに自然にならんだりするものだしね・・。
『クロージング』って言う要素はあまり必要ないのかもしれないね」
「そうなんだぁ~。 なんか、せっかく吸収したノウハウを早く実践したいなぁって思っちゃってさ」
「それなら、いい方法があるぜ?」
さっきまでキャンプファイヤーの周りにいたはずのウルフさんが、突然二人の後ろから声をかけました。
「うわぁ! びっくりしたぁ!!」
「クロージングし足りねぇならよ、おもしれぇこと考えたぜ!
店の片付けは俺も手伝ってやるからよ、一つゲームをしねぇか?」
「ゲーム・・・ですか?」
「あぁ、クロージングゲームだ!」
「クロージングゲーム・・・って・・、どんなことをするんです?」
「さっき、キャンプファイヤーの周りにいた時に気付いたんだけどよ、けっこうな人がキャンプファイヤーの周りに座り込んでるんだ。
様子を見てみると、どうも『お祭り疲れ』でヘトヘトって言う感じだ。
そこでな、ロビンスはマッサージを、もへこはフットトリートメントをサービスとして、お客さんを飛び込みで獲得してくるっていうゲームだ!」
「えぇ~~~!?」
「つ・・つまり、これからその人たちに声をかけて、マッサージやトリートメントのお客様になってもらうっていうことですか?」
「ピンポ~ン! おもしれぇだろ?
みんな、潜在的には『疲れたぁ~』っていうニーズを持っている。 お客さんになる要素は十分だろ?」
「ちょ・・・、そんなの無理ですって!」
「な~んだ、せっかくおもしれぇと思ったのによ。 じゃぁ辞めようぜ。無理するこたぁねしよ。
まぁ、思いつきで言った話だ。気にすんな。
これなら、クロージングの練習をしながら、お店のお客さんを獲得できるじゃねぇかって、ちょっと頭をよぎっちまったからよ・・・」
その言葉を聴いて、ロビンスははっとしました。
「ウルフさん、僕、チャレンジします!」
「えぇ~~!? ロビンス、本気?」
「うん、僕、今気づいたんだ。 ウルフさんは僕たちに『啓発型クロージングをかけている』って。
だって、僕たちが『無理だ』って言ったのを、否定しなかったもん」
「あ! ・・そういえば・・本当だ」
「僕、それに気付いて、こう思ったんだ。 啓発型クロージングは、どんな場所でも使えるはずだって。
だから、僕、やってみるよ!」
「そっか・・・・、よし、じゃぁわたしもチャレンジしてみる!!」
「よし、決まったな! それじゃぁ、負けたほうが今日の夕飯をおごること!」
「えぇ~~~! ウルフさんは!?」
「俺はクロージングの方法を教えたじゃねぇか。 授業料だよ、授業料!」
ウルフさんはそういって、ガハハと大きな声で笑いました。
「こんばんはぁ~。 どこか疲れてないですか?」
「え? え~と、どちら様ですか?」
「あ、あの、焼き鳥屋をやっていたものです・・」
「はぁ・・・焼き鳥屋さんがどんなご用でしょうか?」
「はい。 あの、もしも疲れていたら、お疲れをほぐしたいなって思いまして・・」
「いえ、けっこうです」
「は・・・はい・・・。失礼しました」
ロビンスはすごすごとその場を立ち去りました。
「こんばんわぁ~。キャンプファイヤーすごいですねぇ」
「あら、こんばんは。 そうねぇ、すごいですね。夏の一番のイベントですもんね」
「今日、だいぶお疲れじゃないですか?」
「そうねぇ~、ほら、子どもを抱っこして歩いてたから、肩がこっちゃって・・」
「そうなんですねぇ~。 よかったらお疲れほぐしましょうか?」
「え? でも、申し訳ないわ。 それに、私たち、もう帰らなきゃいけないし・・」
「そうですか・・・失礼しました・・」
もへこは、愛想笑いをしてその場を立ち去りました。
二人は収穫ゼロのまま、ウルフさんの待つ焼き鳥屋の屋台に戻ってきました。
「ウルフさん・・・クロージングの前に、話を聴いてもらうことすらできません・・・」
「まぁ、そういうもんだぜ? いきなり上手くいくわけねぇって」
「何かヒントってないでしょうか。 アドバイスとか・・・」
「しょうがねぇなぁ~。 じゃぁ、クロージング応用編で、『集客のための声かけ編』を教えてやるぜ」
「そ・・・そうしてください」
二人はヘトヘトになってその場に座り込みました。