「いいか、その為の4つのポイントは、
この4つだ。 すげぇシンプルだけれど、ものすごく重要な部分だから、ちゃんとメモをしておくといいぜ。
『わかっていること』と『わかっていた』ことは、全く違う。
『わかっている』を、当たり前だと思っちまうと『わかっていたのに、なんでだろう・・』ってなるからよ」
「はい、ちゃんとメモをしておきます・・」
ロビンスがペンを握るヒヅメを動かしながら言いました。
「『啓発型クロージング』に持っていく道は、『相手のニーズ』にある。
早い段階で相手のニーズを聞くことができれば、最初から啓発型に誘導できるだろ?」
「そうですね。ついつい、最初から自分のお店のいいところとか、アピールポイントだけを主張してしまっていた気がします・・」
「殆どの店がそうだよな。自分の店がいかに他よりも優れているかを語っちまう。
でもそれって、お客さんが本当に聞きたい話じゃないんだよな。
お客さんが聞きたいことは唯一つ。
『それが、自分の、どの悩みを、どんなふうに解決してくれるのか』だけなんだ」
「でも、お店のアピールポイントがお客様のニーズに合致していることって、多いんじゃないでしょうか。
だって、例えばエステのお店だったら、そこに来る時点で『キレイに関する悩みがある』って言うことはわかるわけなので、そんなに大きく外れることはないですよね?」
「確かに、アピールポイントがニーズから大きく外れる事は無いと思うぜ。
だがな、よく考えてみな。
『肌に関する知識』とか『エステに関する知識』なんて、雑誌でもテレビでもインターネットでも、どんなところにでも溢れてるだろ?
じゃぁ、そのお客さんはなんでわざわざそのお店に行って、聞く必要があるんだ?」
「それは・・・・
自分にとって、どれくらい有効なのかを確かめに来てるんだと思います・・」
「その通りだ。来店の時点ですでにお客さんのニーズのウエイトは『知識』にはねぇ場合が多いんだ。
それよりも、『この人は、本当に自分の悩みを解決してくれるのか』のほうを、本当は気にしている。
つまりそれが、そのお客さんにとって『必要』な情報だ。
啓発型クロージングをするには、お客さんの『必要性』にアプローチをする必要がある。
だから、『知識』じゃなく、『あなたの話を聞きますよ』という姿勢自体を伝える必要があるんだな」
「それで、最初のポイントが『相手のニーズを知る』なんですね・・」
「でも、いきなり『何か困っていることはないですか?』とは聞けないですよね・・」
「あぁ、そうだな。そこは頭の使いようだ。整理しながら考えていくぜ。
お客さんがやってほしくねぇことは、
『必要ないのに売り込まれる』
『自分自身を頭ごなしに否定される』
『嫌なことを言う』
っていうことだよな。
裏を返せば、この逆のことはお客さんをいい気分にさせることが多い。
つまり、
『必要なものを提案してくれる』
『自分自身を無条件に肯定してくれる』
『誉めてくれる』
とか、そういったことだ。
これをパズルみてぇに組み合わせてゆくと、一瞬で見事に相手のニーズを引き出すことができる」
「えぇ~~? 本当ですか!?」
「あぁ。本当だぜ。
あれ!? もへこ・・・おめぇ・・・」
「え? なんですか? どうしたんですか?」
「日が傾いてきて、気付いたんだけどよ、なんかこの前よりも肌がツルツルになってねぇか?」
「えぇ~~? 本当ですか?」
「あぁ、5歳くれぇわかがえってるじゃねぇか! もう怖いもん無しだな!」
「そんなことないですよぉ~、目じりのシワは今でもすっごい気にしていますもん・・」
「あ!!」
ロビンスが何かに気付いて叫びました。
「もへこちゃんのニーズだ・・・・ 一瞬で聞き出してる・・・・」
「あ!!」
今度はもへこが大声を出しました。
「気付いたか。 もうちょっとで高い美容クリームを売りつけるとこだったのに」
ウルフさんがニヤっと牙を見せていいました。
「全く否定することなく、詮索することなく、ニーズって聞き出せるんですね・・・」
「あぁ、これはほんの一例に過ぎねぇけどな。 自分自身で考えればいくらでも出てくるはずだぜ。
相手を肯定しながら、ズバっとニーズを引き出す方法がな。
さぁ、どんどん次へいくぜ?
次は、『同じ目線に立つ』だ。」
「これって、けっこうよく聞くことなんですけれど、その本当の意味はよく知らないなって思いました」
ロビンスが言いました。
「『同じ目線に立つ』っていうのをわざわざ入れているのはな、単純に考えるとこういうことだ。
『相手のニーズを聞き出したからといって、すぐに売り込まない』っていうことだ。
お客さんは、自分の悩みを語りだすと、どこか自分に酔いはじめる。いい意味で陶酔しだすんだ。
愚痴だって、語りだすとどんどんノッてきて、止まらなくなる時あるだろ? ああいう状態だ。
そんなときに、『だったらこうすればいいじゃん』って言われたら、もへこならどう思う?」
「なんだか、興ざめしちゃうと思います・・」
「そうだよな。 『お客様の陶酔状態を止めない』っていうのが、『同じ目線に立つ』っていうのをわざわざ入れている理由だ。
同じ目線に立って相槌を入れてゆくと、お客さんの方からどんどんと悩みを語りだしてくれる」
「私、今まで心のどこかで、『お客様の愚痴を聞くのって、嫌だな』って思っていました。
でも、考え方を変えれば『必要性に続く道』を、お客様からどんどんと開いてくれている状態なんですね・・」
「パチンコに例えると、フィーバーですね・・」
ロビンスがつぶらな瞳で言いました。
「あぁ。
お客さんがせっかく気持ちよく自分の必要性の道を開いてくれているのに、それを閉じる必要はねぇよな。
だから、『同じ目線に立って』話を聞く必要があるんだ。
ニーズと関係ない、ただの悪口になるようだったら、それとなく話を戻してやればいい」
「ウルフさん、3つ目の『わかっているを共有する』って、どういうことでしょうか?」
「これも、『同じ目線に立つ』の延長線上だ。
お客さんと同じイメージを描いてゆくっていうことだ」
「同じイメージ・・・ですか?」
「あぁ、例えばお客さんがドイツのお城に行ったとするよな。そして、その体験談を嬉しそうに語っているとする。
そうしたら、全く同じお城がお互いの頭の中にイメージできるようにするんだ。
多くの場合、『へぇ~、なんだかドイツのお城って素敵ですよね~』で、話が終わっちまう。
でも、それじゃぁ、お客さんがどのくらいのお城に行って、何に感動して、何を伝えたいのかわからねぇ。
だから、『同じ絵』を頭の中で共有できるように質問を投げかけるんだ。
『すごい素敵だねぇ~。 で、そこを曲がったら何があったの?』
『その階段は何色だった?』
『天井って、やっぱりすごく高いの?』
『壁画はどんな感じだった?』
『カビの匂いとかはした?』
そうやって質問を投げかけていくと、同じ城をイメージすることができる。
そうすると、4番目の『一緒に行く』を達成できるんだ。
『そんなに素敵なお城だったら私も行きたい! 今度一緒に行こうね!』ってな」
「え~と、それをお店に置き換えると・・・」
「よし、もっとわかりやすく説明するぜ。
例えば、『肩こりをほぐしたい』っていうニーズを、1つ目のポイント『相手のニーズを知る』に基づいて聞き出したとするよな。
そしたらすかさず2つ目のポイント、『同じ目線に立つ』を実行するんだ。
『そっかぁ・・肩こりって本当に辛いですよね。右と左ではどっちが痛いですか?
あぁ・・それは大変ですね。』ってな具合にな」
「そして、3番目の『わかっているを共有する』ですね」
「そうだ。 相手の肩こりと同じ痛みを自分の身体で再現できるくらいに共有するんだ。」
『その痛みはジワジワ痛む感じですか? ズキズキ痛む感じですか?』
『朝、起きてすぐの時も痛いですか? お風呂に入っている時は?』」
「なんか、説明するうちに、『この人なら何とかしてくれる』って思っちゃいそうですね・・」
「そうだな。 そうなったら、4つ目のポイント、『一緒に行く』を実行する。
『それは辛いですね・・。じゃぁ、一緒にその肩こりを克服していきましょうね!』ってな」
「全然嫌味がなく、『がんばろう』って思っちゃいますね」
「あぁ、もっとも、これは『啓発型クロージング』のほんの一つの例に過ぎねぇ。
何よりも大切なことは、『お客様から、買わせて欲しいと言ってもらう』ってぇことだ。
すべて、その為のノウハウにすぎねぇんだ。 テクニックに踊らされないように気をつけてくれよな」
「重要なポイントは・・・『お客様のニーズに寄り添う』っていうことですね」
「その通りだ。 それが含まれてなけりゃぁ、結局『お願い営業』や『提案営業』と同じだ。
『モチベーション営業』にはならねぇからな」
「はい! 何だか僕、焼き鳥が売れる気がしてきました!」
「よし、啓発型の営業でどんどん焼き鳥を売っていこうぜ!」