ウルフさんともへことロビンスは、いざとなったら焼き鳥屋に戻れるように焼き鳥屋の目の前のベンチに座り、話し始めました。
「ロビンスはよぉ、なんで羊のばあちゃんは感謝をしながら帰っていくのに、ロバのカップルは買わずに帰っちまったか、その違いがわかるか?」
「ん~・・・。ロバのカップルは、最初から買う気がなかったんじゃないでしょうか・・」
「そいつは違ぇな。 少なくともロバのカップルは買う気はあったぜ? なぁ、もへこ」
「そうですね・・。最初は買いたそうに見えましたね」
「いいか、羊のばあちゃんとロバのカップルの最大の違いは、『必要性』だ」
「必要性・・?」
「羊のばあちゃんは、『孫が欲しいと言っている肉』を必要としていた。
でも、ロバのカップルは興味はあっても『必要性』はなかったわけだ」
「そうか! 焼き鳥を必要としている人に売ればいいんですね! もうすっかりわかりました!」
「まてまてまてまて・・。そう焦んなって。話は終わってねぇよ。
『焼き鳥を必要としている人』なんて、そうそういねぇだろう。四葉のクローバーを探すみてぇなもんだぜ」
「ウルフさんって、時々例えがロマンチックですよね・・」
「うるせぇな、もへこ。 そこに突っ込むな。
それによ、羊のばあちゃんだって最初から『焼き鳥』を必要としていたわけじゃねぇ。
『孫が肉を食べたいと言っている』っていう悩みと、『目が悪くて地図が見れねぇ』っていう悩みがあったから、お人好しそうなもへこに相談をしただけだ」
「それほどでも・・」
「別に誉めてねぇよ。
もへこはよ、クロージングって言うと、どんなイメージがある?」
「ん~・・、『契約をとる』とか・・・ですね」
「じゃぁ、ロビンスはどうだ?」
「僕は・・・『売りつける』とかです」
「まぁ、一般的にはそういったイメージが強いよな。でもよぉ、クロージングってぇのは、『道案内』のことだぜ?」
「道案内・・・ですか?」
「あぁ、最初にもへこが羊のばあちゃんにやったこと。 あれがクロージングだ」
「でも私、おばあちゃんが困っていたから助けてあげただけですよ?」
「そこなんだ。『おばあちゃんが困っていたから助けた』っていうのがミソだ。
困っている人や悩んでいる人、迷っている人の相談にのって、その人が行きたいところを示して、そして一緒に行ってやる。 これができりゃ、クロージングは完璧だ」
「相談に乗る、行きたいところを示す、一緒に行く・・・」
ロビンスが一生懸命にメモをとっています。
「つまり、『契約を取る』とか『売りつける』っていうのとは違うんですね」
「そうだ。 そりゃぁ、ただの『押し売り』だ。
まずは、『クロージングは道案内』っていうことを、頭の中に叩き込むんだ。
道案内なら、気持ちよくできるだろ? それに、相手から感謝されるだろ?」
「感謝されながらクロージングできたら、一番いいですよねぇ」
「できるぜ? 感謝されながらクロージングてぇのは。
その為には、クロージングの方法をちゃんとジャンル分けしておく必要がある」
「ジャンル分け・・ですか」
「ひと言で『クロージング』って言っても、色々あるんですね」
「あぁ、クロージングは大まかに3つの方法に分かれるんだ。
まずは、依頼型だ。 いわゆる、『お願い営業』ってやつだ。
ロビンスがさっき、最後にやっていたことだ。『アメをあげるから、買ってください!』ってな」
「逆にそれでひかれていましたよね・・」
「依頼型の営業は、どうしてもお客様が優位に立つ。
それは、『断りやすい状態を作り出している』に過ぎないんだ。クロージングからどんどん離れていっちまう」
「そうだったんですね・・・いつのまにか僕は、一生懸命に断る口実を作っちゃっていたんですね・・」
「二つ目は、相殺型だ。いわゆる、『提案営業』だな。
相手の悩みを聞いて、『だったら、これがいいです』って、悩みを相殺する商品やサービスを勧めるやり方だ」
「主流の営業方法ですよね。私、以前本屋で『提案営業のススメ』っていう本を見ました」
「そうだな。最近はこれが一番いいって言われてる。でもな、本当はもっといい方法があるんだ。
それが、3つ目の『啓発型』だ。 『モチベート営業』と置き換えることもできる。
これが、感謝されるクロージングだ。」