森に春がやってきました。
雪で真っ白だった森には、緑の可愛い新芽が顔を出し、桜もつぼみをふくらませ始めています。
森の仲間たちも、すっかり冬眠の寝ぼけ気分から覚めて、冬眠中は閉めていたお店を再開したり、作物を育てる準備をしています。
ウサギの『もへこ』も、自慢のアロマテラピーサロンを再開する準備をしていました。
冬場はみんなが冬眠してしまってあまり実践できませんでしたが、この春からはオオカミのウルフさんに教えてもらった方法でサロンを運営し、しっかりと繁盛させようと、やる気満々になっていました。
寒い冬の間にちょっとだけホコリをかぶってしまったお部屋を掃除し、ラベンダーのエッセンシャルオイルを炊きました。
お店の中にほのかに爽やかで穏やかな香りが漂い、もへこは新しい季節の訪れに対する期待感で胸がいっぱいでした。
「さぁ、今年からは違った自分になるんだ!
あぁ~、楽しみだなぁ。本当に自分がやりたいことを、自分で選択して進んでいけるなんて、素敵だなぁ」
もへこは嬉しさのあまり、鼻歌を歌って踊りだしました。
・・そこへ・・・。
ドンドンドン!!!
「もへこちゃん! 助けて!」
この声は、ブタの『ロビンス』です。
近くでマッサージサロンを開いている、指圧の国家資格を持ったブタの男の子です。
「今あけるから、待ってて!」
もへこは慌ててドアを開けました。
そこへ、泥んこでびしょ濡れになったロビンスが転がり込んできました。
「うひゃぁ! ちょ・・ちょっと、ロビンス! どうしたの? そんなにずぶ濡れで・・。
しかも泥んこじゃない」
「うん・・・まいったよぉ・・。こんなに汚れちゃって・・・。あいつめぇ・・・」
「あいつ? あいつって誰のこと?」
「ここからちょっと南に行ったところに、『おぼろ川』ってあるだろ?
あそこに住んでいるカワウソが、大変なんだ・・・」
「あそこの川のカワウソって・・・コウちゃんのこと?」
「さぁ・・ボクは名前までは知らないけれど、とにかくちょっと来てよ! 大変なんだ!」
シャワーを浴びて泥を落とした後、もへことロビンスは一緒におぼろ川に向かいました。
おぼろ川は、昔はお花見の名所になっていた場所です。
春になると、みんながそこに集まって、春の訪れを祝っていました。
でも最近は・・・、心無い人間の観光地になってしまい、ごみや産業廃棄物が増え、昔のキレイな川や景色が見る影もなくなってしまっていたのでした。
おぼろ川に近づいていくと、鼻をつくような生臭い臭いがしてきました。
二人で顔をしかめながら川岸にやってくると、そこはすでにごみの山になってしまっていました。
「ちょ・・・ちょっと・・・何? これ・・・」
もへこは呟きました。
「どうやら、雪解けとともに、上流のほうに溜まっていたごみが、一気に下流に流れてきたらしいんだ・・。
それより、あそこを見てよ・・」
ロビンスのひづめの指すほうに目をやると・・・
ごみで汚れた水とヘドロに肩まで浸かっているカワウソが、苦しそうな顔をして、そこにいました。
「あ・・・あれって! コウちゃん!! 何やってるの!? そんなところ、早く出て!!」
すると、カワウソのコウちゃんが、震える声で言いました。
「そんなところ・・? ぼ・・ボクにとっては、ここは家なんだ! 勝手にごみがやってきただけなんだ!
ボクは動かないぞ!」
「・・・・ロビンス・・・」
もへこは困った顔をしてロビンスのほうに目をやりました。
「見ての通りさ、ボクもさっき気付いて、なんとか陸に引き上げようとしたんだけれど・・・
あいつ、『ここが自分の家だ!』って言い張って、動こうとしないんだ。
それで、力ずくで動かそうとして、泥んこのびしょ濡れになったっていうわけさ・・・。」
「で・・でも、あのままだと・・・」
「そう・・。死んじゃうよ・・。 他のカワウソたちはとっくに川の上流に非難しているんだ。
彼だけが、現状にしがみついて、濁った水に居場所を見つけてしまっているんだよ・・。」
「・・・・ウルフさんの力を借りましょう・・!」
もへこは、思いつめたような顔つきで、力強く呟きました。